和紙、天然染料利用によるインテリア素材の開発

和紙、天然染料利用によるインテリア素材の開発 柴崎幸次 (愛知県立芸術大学)

Research and development on the use of Japanese paper and natural dye as material for interior products Koji Shibazaki (Aichi prefectural University of Fine Arts and Music) Abstract: The main purpose of this project is to apply traditional Japanese paper making method and natural dye, to create Japanese paper out of different kinds of wild grasses, and to put its beauty and variety into practical use as raw material for lighting fixtures and for wall papers. The result of the study is planned to be presented in the form of an Exhibition on samples of the Japanese paper. As it will take over one year to create such Japanese paper samples, in this report, I will outline the purpose of this research project and explain the traditions and history of Japanese paper as a culture.

【はじめに】

日本の和紙生産は古来より伝わり、手漉き紙の歴史は1500年とも言われている。特に江 戸期は書写用紙を中心とした日本の代表的な産業として最盛期を迎え、各地でその風土気候を利用した原料の調達と独自の製法により、その地域の特性を生かし た形で発展を遂げてきた。近代になり洋紙の台頭や機械漉き和紙が増え、原料栽培と紙漉きの手作業も海外移行などがすすみ、一時は全国に広がった和紙産業は 現在まで縮小傾向にあり、伝統製法による日本の手漉き紙は特別な存在になりつつある。元来紙質が強靱で書写・美術用紙として優れた特徴を持つ日本の手漉き 和紙は様々な用途で使用され、さらに付加価値の高い紙の研究も盛んに行われている。和紙の需要は近代では書写用紙としての用途が圧倒的に多かったが、現在 は多彩に使用され美術的用途で使用することも多く、絵画や造形をはじめ、パッケージや照明器具、インテリア素材等として注目を集めている。

手漉き紙の主な原料は楮(コウゾ)、三椏(ミツマタ)、雁皮(ガンピ)などの靱皮繊維で あるが、過去には麻、竹、雑穀など天然の原料を使った手漉き紙も存在し、その土地の身近な材料で紙漉きが行われてきた。実際に手漉きにて紙にならない植物 は無いとも言われ、身近な野草などの雑草もその植物に応じた個性を表す紙として漉くことができる。  本研究では様々な植物から手漉き紙の製法で紙を制作することにより、その紙に植物独自の個性が見い出せ、生産過程から材料までの手間暇かけたプロセスが 読み取れる素材として、新たな価値観が期待できるのではないかと考え、主に野草を使った和紙と天然染料での素材開発に取り組んだ。本報告では、まず日本の 和紙文化に着目のうえ幅広く調査を行い、現代における和紙の在り方や日本独自の和紙文化が形成してきた精神性と価値について考察する。さらに実際に様々な 植物の手漉き紙の制作を通じ、和紙のインテリア素材としての可能性について質感や美点など研究することを目的としている。また和紙制作の他、身近な野草、 木の実、樹皮などから取れる、様々な天然染料を使用しカラーサンプルの制作を行った。

この研究報告では、サンプルの制作に1年以上の年月が必要となるため、まず平成18年に中間報告として本研究の目的と日本の和紙文化に関する考察を中心に述べ、平成19年度の報告書ではその成果を図版入りで第2章以降に述べることとした。

【1】和紙文化が物語っているもの

(1)日本文化と和紙  日本の和紙文化の歴史は古く4,5世紀には中国から伝わり、仏教と同時に各地で和紙生産が広まったとされている。平安期には大和絵や和歌など文学の用途 で多彩な和紙が作られていたが、雲母引きや金銀箔を使った砂子散らし、雲竜など、世界でも類を見ない多彩さと品質は、日本の歴史・文化やそれを支えた工芸 技術を色濃く反映している。また江戸期には、楮、三椏、雁皮に代表される原料により品質の高い和紙が全国各地で生産され、特に最も主要な原料の楮は日本全 国どこでも生育がよく、それぞれの風土で異なる特色を持っており、収穫から技法など風土気候を利用しつくられた地域文化の表れとも言える。

このように、和紙は地域の環境と共生した形で発展したため、例えば岐阜県の美濃和紙や鳥 取県の因州和紙などのように、地域名が和紙の主な分類となっている。また、和紙の製法には原料の収穫から紙漉きの技法に至るまでの様々な工程があり、最終 成果物としての紙質に大きく影響するが、特に手間暇をかける工程には紙質の違いが生じ、その紙がどのように作られたか製法を辿ることでその和紙の性質を知 ることができる。例えば、素材の調達から加工方法、薬品使用の有無、機械の導入など、手漉き紙の工程は少なからず出来上がる和紙の品質(強度・固さ・光 沢)に影響を与え、製法による違いが生産地名と同様に和紙の大まかな分類となっている。

これらは全て先人の試行錯誤の結果であり、それぞれの和紙づくりの工程はきめ細かな作業の連続で膨大な時間と過酷さを伴う熟練の技術であった。昭和初期 に柳宗悦が手漉き紙の巧みな伝統を取り上げるまで、和紙生産は衰退が深まり続けたが、そこには紙そのものを大切にしてきた日本人の感性に染みついてきた重 要な面が潜在していた。主に農閑期を利用した和紙生産は、その地域で栽培可能な植物から生産され、貴重な紙は盛んに再生も行われた。ここには持ちうる時間 や気候・風土を上手く利用し継続的に生産を行ってきた近代日本のリサイクル文化の発想そのものが見られ、書写用紙としての機能性以外に広い用途のある生活 デザインの素材として再評価することができると考えている。

(2)紙そのものが持つ情報  このように多彩な和紙文化に関して、その生産の工程は、原料、加工、製法(漉き方)など人や地域により個性があり、楮、三椏、雁皮等の原料の差、灰汁で 煮るか薬品を使用するか、叩いて叩解するかビーター等機械を使用するのかなど、和紙の紙質の決め手になる。また原料も楮や雁皮など以外にも、古来より使用 されていた麻や竹から藁、桑、棉(キワタ)など身近で入手しやすい植物も使用され、現在では、ケナフ、イグサ、バナナ、パイナップル、サトウキビなど良質 な繊維が取り出せる材料から様々な和紙がつくられてきている。その紙質は原料が異なることや叩解処理の差などがあれば、出来上がる紙の違いはさらに顕著で あり、逆に紙そのものから叩解方法などの生産と手間に関する情報を読み取ることができる。和紙はその用途や美点により作り方そのものが違い、繊維密度の高 い紙は、強靱で薄く漉け、光沢、紙の張りなどに特徴があり、書写・絵画用紙として優れている。また密度の荒い紙はダイナミックな繊維の結合が表現され、照 明器具などに利用する際の透過光などで見る様相が情緒的で独自の繊維質により自然な美を感じさせる。現在もこれまでの紙の機能より新たな価値観を模索して いるが、培われた生産方法、質感や美点など感覚的な要素も含め和紙から読み取れる情報の価値を、その紙の持つ個性として追求できると考えている。

(3)ものの機能性から精神性へ  近年、多くのメディアが電子化している中、媒体として情報を伝えるための紙が一定の役割を終え、紙を見る視点は確実に変わりつつある。また現代の人は環 境というキーワードにも十分関心を持ち、古紙のリサイクル率、歯止めが掛からない森林伐採や環境汚染、大量消費など環境リスクの低減に関して様々な行動や 意識改革が求められている時代である。どんな紙をどのように使うのか、自らが考え選択するが、機能や性能と合わせて環境意識やものづくりの心の部分にあた る感覚もこれからの紙の評価に加わってくると考えている。

手漉き和紙そのものから製法や材料の違いを読み取れることは、単なる紙としての価値より も紙そのものが発するイメージを受け取り、そこから新たなデザインに応用することを試みることができる。例えば和紙の照明や天然染料の壁紙などから和む心 や安心感を得られるとすれば、その素材がどこで、どのように、手間暇かけて作られたものであるかなど、その風合いを決定づける様々な情報が人の美意識に影 響を与えているとも考えられる。

現在のものづくりは大量生産の時代とは確実に違い、環境共生の糸口を様々な側面から見直 し試行錯誤が行われている。これまで機能性や経済性を中心としたデザイン概念から、さらに環境というキーワードが重要視され、負荷の少ない生産を持続して ゆくサスティナブルな社会構造が求められている。そこには消費者側の意識改革も必要であり、現状の大量消費を伴う生活に対して疑問を抱き、問題解消すべく 工夫を行い、ライフスタイルに変化を持たせる時代の過渡期にある。  これは全てのデザイン分野に関連するテーマであり、日々新たな価値観や機能性を持った素材が開発されるが、さらに人の心に訴えかける精神性やメッセージ 性を付加したデザイン概念が重要になってきている。そのような現代に文化の伝承やこれまで人によって引き継がれてきたものづくり観など、環境などと合わせ てキーワードとして組み込むことは日本文化の独自性を生かす点で重要であり、次代のものづくりの思想的コンセプトとして再評価できると考えている。

写真 制作過程 2

【2】野草による和紙の制作

(1)野草による和紙の制作について  第1章の中間報告までに述べた考えをもとに、これまで紙の材料として使用しなかった野草から、和紙の製法を用いて様々なデザイン用途の可能性のある紙として制作することを試みた。

本研究で実施した野草は25種で、製法を変え約70種の紙を漉き上げた。 ここでは、実際に制作した紙とその特長を述べることとするが、どの原料も紙として漉くのが初めての試みであり実際の作業は試行錯誤が続いた。これまで漉き 上げた紙からは、植物繊維の違いなどにより原料の個性が明確に表現され、素材開発としては多様な紙が仕上がっている。すべて自然の素材であるため、材料と して使用した野草の成長度、時期などによっても若干結果に違いが生じている。

基本的な製法は植物の採集→下茹→弱アルカリにて煮熟→洗浄→叩解→紙漉きの工程で、煮熟は可能な限り繊維の特長を出すために強アルカリ薬品の使用は避 け実際には固形石鹸や薄い苛性ソーダなどを使用した。叩解は植物の固さが様々なので、手打ち叩解とミキサーを使用した。また紙漉きにはネリとしてトロロア オイを使用した。

以下に、制作した和紙の一部を、製法・特長について述べることとする。写真は注釈を省略 するが、植物写真、和紙の写真(原寸にたいして、右から10%、70%、130%)である。また解説は、a 製法[使用部位、下茹で、煮熟、叩解、紙漉き等]、b 色彩、c 出来上がった紙の特長、d 想定される紙の用途をまとめることした。

(2)制作した和紙

1 イタドリ

植物写真               和紙の写真 10%

70%                 100%

a 葉、花の部分を取り除き、下茹で30分、茎を20?~30?前後に切り分け固形石鹸液にて煮熟4時間。手打ち叩解を行い一部ミキサー使用。紙漉きにネリとしてトロロアオイを使用。
b 赤茶色
c 繊維は柔らかく強度的には粗悪で破れやすい。紙にするには結合力が弱く厚い紙しか漉けないが、赤茶色の色彩に特長がありテクスチャーは独特。透かした紙の表情も面白い。
d テクスチャー(壁紙等)、照明を始め様々な用途が考えられる。裏打ちや紙漉き時に楮など混入するなどにより強化しなければ造形素材としては使用が難しい。また50%楮紙も表情に変化が表れる。

1-2 オオイタドリ

a 葉と茎を使用し、下茹で30分、苛性ソーダ5%液を加えて、煮熟2時間。ミキサーを使用。大きく成長したものを使用したため、茎の繊維が硬い。紙漉きにトロロアオイを使用。

b 赤茶色、

c d イタドリと同じ。

2 エノコログサ

a 葉と茎を5~10?にカットし下茹で3時間。苛性ソーダ5%液で煮熟7時間。ミキサーを使用。繊維は比較的硬質。紙漉きにトロロアオイを使用。

b 黄土色、やや緑みのかかった色。

c 繊維は張りがあり結合性は強いが、楮と比較し繊維は硬質。比較的紙になりやすい。厚紙の場合は楮に似た質感であるが繊維が堅い。薄紙は繊維が荒くやや漉きにくい。楮と比べ、やや緑みの黄土色に特長がある。

d テクスチャー、照明、造形素材等に使用できる。種子を混入しても表情がでる。

3 オシロイバナ

a 茎を5~10?にカットし下茹で1時間、固形石鹸液にて煮熟5時間。ミキサーを使用。繊維は比較的軟質。紙漉きにトロロアオイを使用。漉いた紙は、オシロイバナ繊維のみで特厚、中厚。楮を若干混ぜ薄い和紙を漉いた。また、花などは乾燥させ押花とし花弁を漉き込んだ。

b 黄土色

c 比較的繊細な繊維が目立つ特長がある。繊維は柔らかで結合性が弱く破れやすい。厚紙は柔らかい繊維の存在感があり、薄紙の場合は透過する繊維が美しい。

d テクスチャー、照明、立体作品に使用できるが裏打ちや楮を混合し漉くなど工夫が必要。花も混入し同時に漉き上げると表情がでる。

4 クズ

a 葉を取り除き30分湯洗。茎を5~10?にカットし下茹で1時間、固形石鹸液にて煮熟5時間。繊維は比較的硬質で叩解にはミキサーを使用。紙漉きにトロロアオイを使用。繊維が残り荒々しい紙ができるが繊維自体は光沢があり、細かく砕かれた繊維は透明感がある。

b 薄茶色、やや赤みがある。

c 繊維が荒く、紙としての張りがあり強い。厚紙、薄紙とも漉きやすいが繊維の叩解は困難。紙を透かしたとき繊維そのものの表情が面白い。

d テクスチャー、照明、パッケージ、美術紙に使用できる。クズのみでは紙になりにくく、楮など混入するなど工夫が必要。

5 クローバー

a 3?程度に切り下茹で2時間、さらに固形石鹸液で煮熟3時間。手打ち叩解及びミキサーにて叩解。紙漉きにトロロアオイを使用。

b 淡い黄土色。

c 比較的細かい繊維で、紙としての張りがある。非常に美しい紙で厚紙なら硬質で強い紙、薄紙の場合は透明感がある。原料の植物自体が小さく、材料の入手が困難で大量に作るのは難しい

d テクスチャー、照明など様々な用途に応用できる。繊細で美しい紙。

6 ケナフ・靱皮

a ケナフを適当な長さに切り1時間下茹でのうえ靱皮を剥ぎ、固形石鹸液で煮熟2時間。繊維は楮に似ており紙の原料に適している。紙漉きにトロロアオイを使用。

b 薄茶色

c 楮の質感に近いが、繊維に張りがあり結合性は強い。楮と比較しても繊維は丈夫で叩解を少なくすれば繊維の特長も表現できる。薄紙は繊維が荒くやや漉きにくい。厚紙、薄紙とも和紙として強度が出る。

d 照明を始め楮紙と同様の用途に使用できる。同時に漉き込んだ黒皮は楮より薄く独特の質感。

6-2ケナフ・葉

a ケナフから葉だけをとり、水で1時間30分煮熟する。手打ち叩解。紙漉きにトロロアオイを使用。

b 濃緑色、一部繊維は白。

c 紙質は油紙のような質に様々な繊維や葉などが加わった紙。乾燥海苔のような質で柔らかく強度的には粗悪で結合力が弱い。濃緑で素朴な風合いがある。

d テクスチャーは面白く様々な用途が想定できるが紙としての強度に問題あり。強度を増すために裏打ちや、楮を混合し漉き上げるなど工夫が必要。

7 シダ

a 茎が硬く下茹で1時間、固形石鹸液で煮熟5時間。叩解にはミキサーを使用。紙漉きにトロロアオイを使用。厚い紙、薄い紙を漉いたが、繊維の結合性が弱く破れやすい紙質。色は茶色味を帯びている。

b 茶色、混入する繊維は濃茶。

c 繊維は柔らかく結合性が弱い。紙の強度は無く破れやすい。厚紙、薄紙とも破れやすいが、漉き上げた紙にはやや光沢があり独特の存在感がある。

d テクスチャー、照明などに使用できるが、強度を増すために裏打ちや楮を混合し漉き上げるなど工夫が必要。

8 ジャスミン

a 葉も茎も柔らかく、下茹で2時間のみ。叩解にはミキサーを使用。繊維もしっかりしている。紙漉きにトロロアオイを使用。

b 黄土色、やや薄緑系。

c やや荒く、紙としての張りがあり硬質だが破れやすい。0.5?くらいの白い粒が混入する。厚紙は強さ、荒々しい素材感があり色彩も美しい。乾燥時伸縮が大きく薄紙は漉くことができない。

d テクスチャー、照明に使用できるが、強度を増すために裏打ちや、楮を混合し漉き上げるなど工夫が必要。

9 ススキ

a 原料を20?前後に切り下茹で1時間。水洗した後、固形石鹸液にて煮熟6時間。手打ち叩解の上、ミキサー使用。

b 淡い黄土色で繊維の残る部分は茶色。

c 繊維は比較的繊細で楮紙に近い柔らかさがある。繊維の結合性は強い。厚紙は強さ、柔らかい素材感があり、薄紙の場合は透過する繊維が美しい。

d テクスチャー、照明、立体作品に使用できる。

10 オオイヌタデ

a 葉、花の部分を取り除き20?前後に切り分け下茹で30分。水洗した後、固形石鹸液にて煮熟8時間。手打ち叩解の上、ミキサー使用。

b 赤茶色、イタドリよりやや薄め。

c 繊維は柔らかく結合性が弱い。紙の強度は弱く破れやすい。厚紙、薄紙とももろい紙だが、漉き上げた紙には赤茶色の色彩に特長がありイタドリよりも丈夫。紙としてのテクスチャーは独特。

d テクスチャー、照明を始め様々な用途が考えられるが強度を増すために裏打ちや、楮を混合し漉き上げるなど工夫が必要。

11 ツユクサ

a 葉を取り除き下茹で30分。水洗した後、固形石鹸液を入れ煮熟2時間。手打ち叩解の上、ミキサー使用。煮汁が濃い色なので念入りに洗浄。粘度があり繊維も光沢がある。

b 薄黄土色。

c 繊維は柔らかく繊細な質感。比較的紙に成りやすいが結合力が弱い。厚紙は繊維の強さ、荒々しい素材感があり、薄紙の場合は透過する繊維が美しい。落水や葉脈の混入など様々な表現が可能。

d テクスチャー、照明を始め様々な用途に使用できる。裏打ちや、楮を混合し漉き上げるなど工夫が必要。

12 ドクダミ

a 下茹で30分、水洗した固形石鹸液にて煮熟3時間。煮汁が濃く念入りに水洗を行いミキサー使用。ドクダミ独特の強い匂いが出る。

b 薄茶色。0.2から0.5?くらいの黒い斑点がある。

c 繊維が荒く紙としての張りがある。厚紙は荒々しい素材感があり、薄紙の場合は透過する繊維と黒斑が美しい。

d テクスチャー、照明、立体作品に使用できる。

13 トロロアオイ

a 下茹で30分、靱皮を剥がし2時間固形石鹸液にて煮熟。手打ち叩解を行うが、繊維は堅くミキサー使用。

b 楮紙等とほぼ同色。

c 繊維の結合性は強いが、楮紙と比較し紙に張りがある。黒皮を入れて漉き上げた。厚紙の場合は楮に似た質感であるが繊維が堅い。薄紙は繊維が荒くやや漉きにくい。

d テクスチャー、照明に使用できる。同時に漉き込んだ黒皮が美しい。

14 彼岸花(茎)

a 茎と葉の部分を使用。下茹で50分、固形石鹸液にて煮熟30分。手打ち叩解。繊維は極めて柔らかく透明感があり美しい紙が出来る。

b 薄黄色、やや緑系。

c 繊細で透明感があり強い。雁皮や油紙に似た質感。厚紙、薄紙とも漉きやすい。黄色系の色彩、繊維、透明感とも美しく、混入する細かい繊維は糸のように縮れた様子で光沢があり独特の質感

d テクスチャー、照明、パッケージ、美術紙に使用できる。

15 ブタナ

a 採取した植物を3?程度に切り、下茹で2時間、固形石鹸液にて煮熟3時間。手打ち叩解のうえミキサー使用。紙漉きにネリとしてトロロアオイを使用。

b 薄い黄土色。

c 比較的繊細で、細かい繊維が目立つ特長がある。繊維は張りがあり結合性は比較的強い。厚紙は強さ、繊維の素材感、鈍い光沢があり、薄紙の場合は透過する繊維が美しい。

d テクスチャー、照明、立体作品に使用できるが裏打ちや、楮を混合し漉き上げるなど工夫が必要。

16 メヒシバ

a 採取した植物を3?程度に切り、下茹で3時間、固形石鹸液にて煮熟7時間。手打ち叩解のうえ一部の繊維にミキサー使用。紙漉きにトロロアオイを多めに使用。メヒシバの繊維に楮を40%混合漉くものも制作。

b 薄茶色。0.5?くらいの黒い斑点や種子が混在する。

c 細かい繊維が目立つ特長がある。紙としての張りがあるが強度は出ない。厚紙は強さや荒々しい素材感が感じられ、薄紙の場合は透過する繊維と黒斑、種子が美しい。

d テクスチャー、照明、立体作品に使用できるが、裏打ちや、楮を混合し漉き上げるなど工夫が必要。

17 ヤツデ

a 葉の部分を下茹で2時間、固形石鹸液にて煮熟7時間。手打ち叩解。

b 薄黄土色。

c 原料のほとんどが葉のため繊維は少なく、紙としては粗悪で厚い紙しか漉けない。厚紙も強度が出ずスポンジ状の質感。

d テクスチャーは表情がでるが、紙としての強度に問題あり。強度を増すために裏打ちや、楮を混合し漉き上げるなど工夫が必要。

18 ヤマゴボウ茎の靱皮

a 採取した植物を下茹で30分、靱皮を剥がし固形石鹸液にて煮熟3時間。靱皮の質感を残すため、茹でた靱皮を手で解し、靱皮の質感を失わない程度に手打ち叩解を行った。紙漉きにトロロアオイを使用。

b 楮紙等とほぼ同色。黒皮は薄茶色。

c 楮の質感に近い。繊維は柔らかく結合性は強いが、楮と比較し繊維はやや硬質。黒皮を入れて漉き上げた。厚紙の場合は楮に似た質感である。厚紙、薄紙とも透きやすく強度が出る。

d テクスチャー、照明を始め楮紙と同様の用途に使用できると思われる。同時に漉き込んだ黒皮は楮より薄く独特の質感。

18-2 ヤマゴボウ・葉

a 茎と葉は質感が全然違うので別々に制作。採取した植物を下茹で2時間、固形石鹸液にて煮熟2時間。繊維の質感を失わない程度に手打ち叩解及びミキサーを使用。

b 薄黄土色。0.2から0.5?くらいの黒い斑点がある。

c 繊維は柔らかく強度的には粗悪。結合力が弱く破れやすい。

d テクスチャーは面白く様々な用途が想定できるが紙としての強度に問題あり。強度を増すために裏打ちや、楮を混合し漉き上げるなど工夫が必要。

18-3ヤマゴボウ・葉と種

a やまごぼうの葉と種を混ぜて制作。採取した種は実を房ごと下茹でして取り出した上、さらに下茹で2時間、固形石鹸液にて煮熟2時間。手打ち叩解及びミキサーを使用。紙漉きにトロロアオイを使用。

b 薄黄土色。0.5?から1?くらいの黒い種子が見える。

c 繊維は柔らかく強度的には粗悪。結合力が弱い。紙の強度は弱く破れやすいが種の表情など独特の紙が透き上がる。

d テクスチャーが面白く、それを利用して様々な用途が想定される。紙としての強度に問題があり、強度を増すために裏打ちや楮を混合し漉き上げるなど工夫が必要。

19 ユリ(ウバユリ)

a 花が咲き終わり、実を付けた部分と、葉、靱皮で制作。下茹で1時間、固形石鹸液にて煮熟2時間。手打ち叩解及び全体の1/10だけミキサーを使用。紙漉きにトロロアオイを使用。

b 薄黄色で緑色系斑入り。実、種子を混入。

c 粘度があり、油紙のような質感に、種子と硬質の繊維が混入し独特の質感。紙としての結合性は強いが、繊維が弱く破れやすい。厚紙、薄紙とも、テクスチャーや繊維の透明感が面白い。紙には成りやすいが強度は出ない。

d テクスチャー、照明を始め質感が独特のため様々な用途が考えられる。強度を増すために裏打ちをする方が良い。

20 レタス

a レタスの外側の葉を使用し制作。下茹で1時間、固形石鹸液にて煮熟1時間。手打ち叩解のみ。紙漉きにトロロアオイを使用。

b 黄土色。一部濃緑色

c 紙質は油紙のような質に様々な繊維や葉などが混合する。乾燥海苔のような質で柔らかい。結合力が弱く強度的には粗悪。色は鈍い光沢がある。

d テクスチャーは面白く様々な用途が想定できるが紙としての強度に問題あり。強度を増すために裏打ちや、楮を混合し漉き上げるなど工夫が必要。

21 オオフサモ

a 下茹で1時間、固形石鹸液にて煮熟2時間。手打ち叩解。オオフサモだけだと紙が収縮し破れが生じるので1/5程度、楮を混ぜ制作。紙漉きにトロロアオイを使用。

b 茶色、一部繊維は黒。

c 水草繊維のみでは紙に成らず、1/5程度の楮を混合し紙漉きを行った。海草類独特の粘度があり、色彩は黒に近い。乾燥時の伸縮が多く紙がたわむ。乾燥海苔 のような質で楮を入れることにより独特の風合いを出す。楮無しでは製紙は難しい。混入した黒い繊維が、特長があり表情がでる。

d テクスチャーは面白いが、伸縮が多く紙がたわむ問題あり。ただ、その性質を利用した造形の余地がある。透かしたときには独特の表現性があり、照明を始め様々な用途に使用できる。

22 トチカガミ

a 下茹で1.5時間、固形石鹸液にて煮熟2時間。手打ち叩解。トチカガミだけだと紙が収縮し破れが生じるので5分の1程度、楮を混ぜ制作。紙漉きにトロロアオイを使用。

b 黄土色、一部こげ茶色。

c 水草繊維のみでは紙に成らず、5分の1程度の楮を混合し紙漉きを行った。海草類独特の粘度があり、乾燥時の伸縮が多く紙がたわむ。乾燥海苔のような質で楮を入れることにより独特の風合いを出す。楮無しでは紙に成らない。

d テクスチャーは面白いが、伸縮が多く紙がたわむ問題あり。ただ、その性質を利用した造形の余地がある。照明を始め様々な用途に使用できる。

(3)天然染料について  紙の制作と同様、天然染料にて表現できる色彩に関してのサンプル制作も行った。使用した原料は植物8種(カンツバキ、ムツバアカネ、ブタナ、ヒサカキ、 アシ、ヤシャブシ、ケヤキ、キョウチクトウ)、混色用として、コチニール、インディゴピュア(藍)の2種を使用し、媒染剤はミョウバン、塩化第1錫、酢酸 クロム、塩化第1鉄、硫酸銅を使用した。染色繊維には綿、絹、ウールを使用し計90種のカラーサンプルを制作した。このサンプル制作に関しては、紙の染色 法としての天然染料の先染め、後染めなど継続して実験を行っている。

【3】おわりに

本研究は自然の素材を使用し“環境とどのように向き合うか”ということをテーマに様々な 試行錯誤による制作を行った。野草など自然の素材と向き合うことで制作する紙の成果に様々な発見もあったが、さらに重要なのは採集などから植物などを見方 が変わってきたことでもある。この様々な種の個性がプロダクトに成ってデザインに生かされることに価値を見出すために制作を行ってきた。モノがあふれる時 代になり、そのものの価値にも機能や目的だけではなく、何からどのようにこの素材が作られたのか。またそこにどのような意識が見え隠れしているのか。イン テリア素材にもそのような見方が注目されていくことを期待している。

本研究は素材作りの試行錯誤から多くの素材サンプルを制作することができたが、研究の主旨は色彩や質感に関係することが主で、本報告書の写真や解説など では実感が沸きにくいと思われる。この成果は今後実物展示により発表を行う予定である。また制作サンプルについては詳細の写真資料を別途編集している。今 後はこの経験からさらにサンプルを制作し、実際のプロダクトや美術作品等を制作するなど、これまでに無かった素材を駆使し新たな表現を深め追求したいと考 えている。

【4】謝辞

本研究の実施にあたり、愛知県立芸術大学非常勤講師の森島紘史氏、加藤國男氏、佐藤友泰氏には技術面でのアドバイスや情報提供などの協力を頂いた。紙のサンプル作成は愛知県立芸術大学美術学科デザイン専攻の学生が協力した。以下にその担当を記す。

駒田奈保・田所美咲[エノコログサ、オオフサモ、トチカガミ、ヒガンバナ]、山田恵理・二 之宮智美[オオイヌタデ、イタドリ]、伊豫田真葉・奥出あゆみ[クローバー、ブタナ]、河合友理(愛知教育大学)・武田裕子[オシロイバナ、メヒシバ]、 中村恭子・宮崎さやか[ツユクサ、クズ、ススキ]、植田早耶・小川徳子[ケナフ]、大森志歩美[レタス、ヤツデ、ヤマゴボウ、ユリ]、川地亜依[オオイタ ドリ、シダ、ジャスミン、ドクダミ、トロロアオイ]

また、本研究は日比科学技術振興財団から研究助成をいただき、全ての関係者各位に心より御礼申し上げます。

参考文献

全国手漉き和紙連合会 『新版日本の紙(上・下)』 2006年
同  『平成の紙譜』 1992年
久米康生 『和紙の源流』 岩波書店 2004年
同  『和紙多彩な用と美』玉川大学出版部 1998年
町田誠之 『和紙の道しるべ』淡交社 2000年
森島紘史 『知の起源 和紙のデザイン』鹿島出版会 2003年
加藤國男 『草木の染色工房』グラフ社 1997年