[調査研究]R−2 中国紙に関する調査 2017.06
[写真]宣紙の原料である、青檀
[調査研究]R−2 中国紙に関する調査
中国出張記録
本プロジェクトの中国側コーディネーターである大連民族大学の馬副学科長(MA Chun Dong)とプロジェクトミーティングを行うこと、また【R−2 中国紙に関する調査 The research for the Chinese paper】に関する基礎調査を実施した。愛知県立芸術大学からは、柴崎幸次と本田光子が参加した。
日本ではなかなか情報が入りにくい、宣紙について調査を行った。
[写真]大連民族大学
[写真]馬副学科長(MA Chun Dong)とプロジェクトミーティング
日程
6月16日(金)
CZ620中部国際空港11:55出発/大連空港13:25着。
大連民族大学デザイン学院周助教授、金講師、王講師と合流。
馬副学科長とプロジェクトミーティング。
同大学デザイン祭を見学。大連泊。
6月17日(土)
大連旧市街、朝市を見学。
昼食の後、旅順博物館を見学。大谷探検隊の収集品や博物館設立の経緯などを展示中。清朝四王の展示は時間不足。大連泊。
[写真]大連、旅順博物館
[写真]大連、旅順博物館に残る展示ケース。日本統治時代の時代からのもの。
6月18日(日)
CZ6189大連空港7:05発/南京空港8:45着。
車にて移動。
南京博物院を見学。工芸品が多い。
昼食後、南京から宣城へ車で移動。
宣城泊。
[写真]南京博物院
[写真]宣城泊の風景
6月19日(月)
一日車で移動。
小嶺村宣紙工場(チョウ氏の工場と自宅など)
昼食の後、安徽省宣城宣紙博物館(紅星社)を見学。
上海へ車で移動。
上海泊。
[写真]安徽省宣城宣紙博物館(紅星社)
6月20日(火)
上海博物館を見学。金靖之先生には会えず、孫峰先生に手土産を託す。唐代の紙の仏画、元の紙幣あり。
CZ379遅延につき、上海空港20:30発/中部国際空港23:00頃着。
[写真]唐代の紙の仏画
1 【宣紙について】
宣紙の工程は、主に下記の通り。
青檀の収穫→皮引(靱皮)→晒し→黒皮取り→乾燥原料へ。
→煮熟(石灰)→漂白の場合は炭酸ソーダを入れる→アク抜き→天日乾し→湿らせて原料選別、黒皮取り→叩解(打解)→原料断裁→布袋に入れて原料を洗浄する→(原料断裁が無ければナギナタビーターも活用)→水に入れ十分撹拌→キウイのガムエキスを入れる→竹簀で漉き、重ねる→圧搾(板状にかたまる)→数日置いて鉄板乾燥。一部稲わらを入れる場合もある。
宣紙には生宣と熟宣がある。生宣は、そのままの紙。熟宣とは雲母、明礬、礬水引きをおこなったものでキラッと光る。すると硬筆がにじまず、精密に描ける。加工は外注する。
記録上、1876年には小嶺村で製紙を行なっていた。実際にはもっと前からやっているという。少なくとも千年以上の歴史があるといわれる。文化大革命の折、蔡倫を祀る廟も壊された。
[写真]青檀。3年ごと刈り取りを行う。
[写真]宣紙は、高級書道紙として有名
2 【小嶺村宣紙工場】
宣紙について
宣紙の原料は青檀。職人には2、30年勤務の人もいる。代々やっている。
漉き舟は石のものもある。工房の前にずらりと青檀の木が生えている。幹から伸びる枝を、成長を待って3年に1回収穫する。
[写真]小嶺村宣紙工場。大きな簀で、次々紙を漉き上げる。
[紙漉の工房、鉄板乾燥場]
3時に起き、4時から11時までに200枚の紙を漉く。次の工程があるので早い時間に作業を行なう。1日で400枚を漉く。工場にて4-6人で漉いている紙は、厚みを出すため2回漉く。見学時の紙は比較的安価な紙であり、紙の寿命が長い高級紙はまた別に漉いている。漉いた紙を重ねて圧縮するまで1日。2、3日置いて、棒で叩き鉄板で乾燥させる。乾燥機は工場では蒸気ではなくお湯を中に回している。
紙を日光で干すため、建物の外に出して並べている。(雨のためかビニールがかけられていた)
チョウ氏の自宅近くの紙漉工房を訪ねる。
原料は、ミツマタ、コウゾもあるが、青檀が9割。青檀は白く繊維が長い。炭酸ソーダで漂白する。漂白前は茶色い。または、化学染料で様々な色をつけている。
この工房はもと製紙工場だったがしばらく休業し、屋根を直して再開した。
パルプと四川省の草(本当は藁でやる)を使用して、代替品の安い紙も作っている。切り刻んだ紙に檀皮などを加えて安い紙を作る。
現在は、台湾の受注も受け製紙している。
[写真]多くの紙漉が働き、工場の中も活気がある。
[写真]大判の紙は、数人がかりで漉く。
[写真]毎日沢山の紙を漉く職人さんの動きや技術もレベルが高い。
[写真]大きな湿った紙を、鉄板乾燥板に貼り付ける。
[写真]圧搾された状態の大判紙
[チョウ氏の自宅にて]
様々な紙を出していただき見る。取り分けていただく。
本物の宣紙。細かい繊維を拡大して見る。藁と青檀50%。
麻入りの紙も繊維がこまかく青檀のよう。
お茶の葉入りの紙は匂いがする。
漂白していない青檀の紙は茶色い。青檀を煮て、天日干し(雨ざらし)6-8ヶ月すると白い部分と黒い部分にばらけるので、手作業で黒い部分を取り除く。
青檀は3年以上成長すると黒いところが取れなくなってしまい、2年だと柔らかすぎるので、3年に一度切り取る。年末に切って、外皮のついた枝のまま、水で煮る(ソーダ灰も入れない)。煮てから皮を剥ぐ。
頂戴した紙:石の粉入、青檀(漂白)、青檀(漂白、厚手)、青檀(無漂白、長繊維)、青檀(染めたもの)
[写真]宣紙を中心に様々な紙を漉いている。
3 【簀の工房】
紙漉に必要な道具類もここで作り、まかなっている。
簀の工房にて(工房から車で20分程度)
台湾へ、ブランド品として輸出している。
最も太いものが4号。柴崎は4号を発注予定。
簀が黒いのは漆を塗るから。漆は必ず塗らないと使用できない。ただし100%の青檀は漆を塗らない簀を使う。
簀に透かしを入れることができる。これは、作家のオーダーに応じて。透かしは後で取り除くこともできる。
竹は乾燥すると折れてしまうため、1日以上(30時間)水に浸ける。しなやかになる。割いてから天日干しにする。
[写真]大判の簀を編む工房
[写真]大判の簀を編む工房
[写真]簀の需要もあり、多くの仕事をしている。日本では簀は技術者不足で、なかなか発注できない。
4 【紅星社の宣紙博物館】
紅星社は宣紙のブランド。国家的祝いごとでも記念の宣紙を作る。
周囲の山の斜面に一面、青檀を干している。藁はケイ県の藁のみを使用し、真ん中だけを使う。
1階は宣紙の工程と歴史をパネル、映像、展示物で紹介。(パネルはカメラで撮影)
2階の展示室にて(撮影禁止)。明清の紙、18世紀のものもある。
料紙は染料で染め、蝋を塗り、大理石で磨く。
著名な書家:中国仏教協会の趙樸初。清朝の末裔、居功。近代書家のナンバーワン、劉海要。
別棟の三丈三宣紙を見学。12×4.5m程度。1日65枚をすく。安定するには数日かかるので、はじめにすいた紙は捨てる。
体験コーナーにて。「踏料」は30分くらい足で繊維を踏む。これを3回にわけて洗う。
簀を制作する機械は、織機を改良したもの。画家がそれぞれ好みのものを特注する。
鉄の乾燥板の中は空洞で石炭を燃やし熱を取っている。
[写真]煮熟した青檀の天日乾し。壮観な風景。
[写真]紅星社の宣紙博物館内部。
[写真]日本いうキュウイのツタのエキスを紙材に混ぜる。
[写真]宣紙の原料。稲わらも入る。
[写真]2階展示室。許可を得て撮影。
[写真]博物館に隣接する中庭。
[写真]湿らせて原料選別、黒皮取り
[写真]叩解(打解)大きな打ち込みの機械で原料を打つ。
[写真]打ち込み固められた原料。
[写真]板状に叩き固められた原料の断裁。
[写真]布袋に入れて、原料を洗浄し踏み込み後、さらに洗浄。
[写真]竹簀で漉き、重ねる
※宣紙の工程(再掲)
青檀の収穫→皮引(靱皮)→晒し→黒皮取り→乾燥原料へ。
→煮熟(石灰)→漂白の場合は炭酸ソーダを入れる→アク抜き→天日乾し→湿らせて原料選別、黒皮取り→叩解(打解)→原料断裁→布袋に入れて原料を洗浄する→(原料断裁が無ければナギナタビーターも活用)→水に入れ十分撹拌→キウイのガムエキスを入れる→竹簀で漉き、重ねる→圧搾(板状にかたまる)→数日置いて鉄板乾燥。一部稲わらを入れる場合もある。