[セミナー]S-1ウズベキスタンセミナー 2018.02.18-23

S-1 ウズベキスタンセミナー 

ウズベキスタン出張報告書

2018年2月18から23日

参加メンバー

愛知県立芸術大学:柴崎幸次、本田光子、鈴木美賀子、兪期天、冨樫朗

檀国大学:朴 允美

大連民族大学:周思昊 、金青松

 

Ⅰ 19日 東洋学大学所長との面談

Abdukhalimov Bakhrom氏。東洋学大学(Oriental Study Institute)所長は科学アカデミー(Academy of Science)の副総裁(vice president)でもあり、専門家でもある、大変多忙な方。科学アカデミーは約30大学を含み、東洋学大学はその一部とのこと。

研究目的、ウズベキスタンの紙の多様性を調べること等説明したところ、具体的な協力内容を聞かれ、
1,ミニアチュールの復元模写を共同で行うこと

2,サマルカンド紙の素材・技法を調査したい。

繊維を見ると、綿でも桑でもないものもある。この研究で、サマルカンド紙のアイデンティティを明確にし、認知度を高めたい。

3,博物館所蔵品の情報に、単に「紙」とだけではなくどんな種類の紙か、詳しい情報を加えデータベース化したい。

など。

Bakhrom氏から、「この一年でどんな成果が出たのか?」の質問があり、

パソコンで前回の調査にて撮影した画像を見せ、これらの方法で、数多く紙を調査をしたいことと、紙片を持ち帰り、繊維を日本で分析したい事を伝える。

「そのためには協定が必要」とのことで、柴崎が用意してきたMOU協定の草案を見せ、5月までに具体的な内容を盛り込んだ協定を締結できれば、紙片の提供などは可能との事でした。

まずは東洋学大学、NIFAD大学、愛知県芸の3大学でどうか。ウズベク語(またはロシア語)、日本語、英語で。今後は、国際部とファジラット氏と、本学ロベルと内容をつめていきたいとのこと。

東洋学大学は、元敷地のとなりに新校舎を建設し、来月15日に正式に開学。

[写真]東洋学大学の書籍部で紙の復元を見学

[写真]東洋学大学にて撮影

 

Ⅱ 21日 ウズベクセミナー NIFAD大学

[写真]東洋学大学にて撮影

NIFAD大学(National Institute of Fine Art and Design named after Kamoliddin Bekhzod)にて、S1ウズベキスタンセミナーを実施した。

1,展示会

展示参加:柴崎、佐藤、河合、鈴木、阪野、兪、朴(檀国大学)、周、金(大連民族大学)、あとNIFAD大学の教授の作品で実施。さらに柴崎が編集した日本の和紙の製本、韓国の李朝時代文書の復元など。

[写真]展覧会場にて開会式。ウズベキスタン国営テレビの取材

[写真]展覧会場の様子

 

2,講演

参加者は60名程度。招待客と学生や研究者による。

[写真]セミナー会場風景

[写真]セミナー会場風景

(1)柴崎幸次の講演

[タイトル]S1ウズベキスタンセミナー「現代に生きる“手漉き紙と芸術表現”の研究 ~サマルカンド紙の復興を中心に~」

このプロジェクトの概要→美しいイスラム美術について→サマルカンド紙の繊維を調査し原料を特定すること→現在の紙の歴史や理論の矛盾する点など。最後に調査のための紙片を提供頂きたいことなど。

講演後、かなり多くの質問や意見があり、この課題に対する興味の度合を知ることができた。

 

(2)冨樫朗(豊田市和紙のふるさと)の講演

[タイトル]和紙の歴史

ⅰ 和紙の誕生に関して

610年、日本書紀の記述→最古の資料702年正倉院文書の戸籍→770年に年代の特定できる世界最古の印刷物、百万塔陀羅尼経。

ⅱ 和紙の発展

9世紀以降になると、書画、和歌、文学などの芸術分野で発展→16世紀に書院造、紙が建築・その他に使用され始めたこと→桂離宮のフスマと障子→17世紀全国的に紙漉きが始まり、庶民の生活文化にも浸透→浮世絵、玩具(凧)、灯り、傘。1901年の統計で、68,562軒の紙漉きを記録するが、機械製紙の導入などにより急速に衰退し、現在の衰退傾向にあることを紹介

ⅲ 和紙の特徴

・トロの混入 ・流し漉き技法 ・和紙の原料

和紙原料:麻、楮、雁皮、三椏

ⅳ 多様な和紙:和紙産地、特徴ある和紙

・白石和紙(宮城県白石市)・五箇山和紙(富山県南砺市)・加賀雁皮紙(石川県能美市)・間似合紙(兵庫県西宮市)・土佐典具帖紙(高知県いの町)・土佐泉貨紙(高知県四万十市)・みす紙(奈良県吉野町)・越前奉書紙(福井県越前市)・雲肌麻紙(福井県越前市)

ⅴ 今後の展望

・和紙の継承問題・原料、道具等も入手困難

・伝統を繋ぐためには新たな挑戦が必要と提案して発表

 

(3)朴 允美(檀国大学校)の講演

[タイトル]朝鮮王朝実録の複製本制作

ⅰ 朝鮮王朝実録の複製について

朝鮮時代第25代国王の472年間の歴史を年月日の順に記録した本であり1,893巻、888冊に構成、国宝第151号に指定されて1997年にはユネスコ世界文化遺産に登録となった。実録は朝鮮時代には4ヶ所に分散されていたが、多くの戦争で現在はソウル大学校の※奎章閣(ギュジャンカク)と国家記録院に分けて保管されている。

奎章閣では朝鮮王朝実録を原形と同じに複製しているが、2016年には世宗(1418~1450)の実録の中で27冊を複製した。世宗実録を複製するためには韓紙、墨、表紙織物などの素材に関する調査を行った。

ⅱ 複製本の制作に関して

実録の大きさは約300×545×15㎝程度で内紙は韓紙を二重に重なる状態で上はを引いた。表紙は韓紙の上に青色の絹をつけて紅色の紐で結んでいる。

表紙に使用された韓紙の平均の厚みは、表紙は563.1㎛,裏紙は402.44㎛である。内紙の厚みは299㎛。

複製の韓紙は国内で生産した1年生の楮を使用して、煮熟は灰汁を使用する伝統方法で行った。漂白剤は使用せず、ウェバル(横漉き手漉き技法)方法で紙を作った。

表紙の織物は平織りで製織した絹で織物の密度は15~39筋/㎝で本によって差がある。絹は全過程を伝統的な方法で行なった。製織後には精錬して一枚ずつ染色をした。装幀用の組紐は3筋をよって作って紅色に染色した。

実録の複製はできる限り原形に近い形にて復元を試みた。

※朝鮮王朝第22代王正祖の時に設けた、歴代の王の書・詩文・顧命などを保管した図書館。

(4)ファジラット氏の講演

・これまでのNIFADと愛知県芸との交流、プロジェクトの進展について説明

・芸術表現と技法の復元には現大統領も関心を寄せている。復元研究施設の建設も望まれるが、そうした研究にはまず紙が必須である。

・紙は中国から伝播したが、サマルカンド紙は文字をきれいに書くことができる。ロシアの考古学者ヴィヤトキン(1908年にサマルカンドでウルグベク天文台跡を発掘したアマチュア考古学者)によると、イスラム教が伝わってからサマルカンドが発展したという。サマルカンド紙についてはいろいろと指摘されているが、成分についての調査はまだない。

・ヴィヤトキンはまた、科学アカデミー所蔵の19世紀の書籍を全て調べたところサマルカンド紙は一つもないと言う。中央アジアにロシアから工場生産されたパルプ紙が入ったことで19-20世紀にサマルカンドで製紙が衰退し、技術者がコーカンドへと流出した。

・コーカンド王は技術者を歓迎し、コーカンド紙が高く評価されて売れたのである。そういうわけで、サマルカンド紙はまたコーカンド紙とも呼ばれた。なお製紙は郊外で、販売は市中の市場で行なわれた。

 

3,ディスカッション

最後に、議論の時間をとり、柴崎から聴衆に質問する形で、サマルカンド紙はどのような紙なのか、参加者の認識を問う。

〝紙の名前は重要で、日本だと和紙の中に、石州、美濃、細川など、多くの紙の名前が存在する。コーカンドやブハラ、サマルカンドなど地域や民族の違いもある中、サマルカンド紙という総称で良いのか?〟

この議題には多くの意見があり、最終的に、下記のようにまとめを行った。

「サマルカンド紙は、今は途絶えており、製法や厳密な歴史も不明な点が多いが、この文化が、様々な場所に伝播して、イスラム世界においてさらに成熟した事から、美しいサマルカンド紙は、この地域の紙文化の精神的な支柱であること。よって、サマルカンド紙の定義は、1200年前(おそらく750くらいに)に製紙技術が確立し、その製紙の伝統を引き継ぐ紙」という認識で一致した。

[写真]NIFAD大学、ディスカッションの様子

[写真]NIFAD大学、セミナー終了時、記念撮影

[写真]NIFAD大学、学長との面談

 

4,(補足)この会議のあと、タシケントの国立図書館事務局長が、紙片の提供に協力を表明。

 

Ⅲ 22日 サマルカンドエクスカーション

10:00 サマルカンド大学図書館

13:50 レギスタン広場見学

15:00 絨毯学校見学

16:20 コニギル・メロス工房

 

1,サマルカンド大学図書館

[写真]サマルカンド大学図書館、記念撮影

・5月に、セミナーを行いたいとの申し出があり。

・最古の本は10世紀。紙の成分調査に興味。(同位体分析という方法。京大、阪大と共同調査を行っている?

・紙片の提供は、協定あれば可能か? また個人蔵の本を持ち寄ることができる。

・本の修復に関し、その方法の検討に関し協力して欲しい。

[写真]サマルカンド絨毯学校見学

 

Ⅳ 23日 NIFAD教員交流会 イスラム大学

1,NIFAD教員交流会

・参加大学が各大学の概要を説明。続いて、専攻ごとに分かれて交流。

・ベクゾット先生によるミニアチュールの金彩実演に参加。

・紙漉き工房設置に関する議論。

・カリキュラム再考に関する議論

・イスラム大学、古典籍室ムハンマド・シッディック氏が古写本の紙片を持参。

2,イスラム大学

[写真]イスラム大学学長と懇談

・イスラム大学国際部長、学内を案内のうえ、まず学長と懇談。続いて国際部長と古典籍室ムハンマド・シッディック氏が古典籍室で見学対応。

・イスラム大学所蔵の最古の写本は13世紀。古い写本の多くは本の形を留めておらず紙片の状態である。その分析、修復を行なっている。収蔵している古い写本はほぼ全てが個人所蔵品からの購入。

・イスラム大学では宗教学以外の総合的な教育を実施している。その中でも最も注目されるのがイスラム史であり、古書の分析も注目される。

・プロジェクトの重要性はよく認識している。愛知県芸と協定を希望、共同での研究、展示、セミナーを歓迎する。

・古写本の紙の繊維には綿花や桑が見られる。(柴崎「すでに調べてあるのか?」)これまではアラブの国々から研究者が訪れていた。紙の成分分析はこのプロジェクトが初めてである。

・協定もこれまでアラブ諸国が多いので、日本は歓迎する。紙の研究は結果を出すだけで終わらないようにしたい。紙の復元を製作することは可能か。それができれば、修復に使用したい」柴崎「当時と全く同じ紙は原料・用具の違いから難しい。そのものではなくても方針を決めることはできる。紙の文化は一旦途絶えると復元がとても難しい。サマルカンド紙に関する伝承を記録にして残すことも重要」

[写真]イスラム大学古典籍室の見学