[セミナー]S−2 中国セミナー 報告 2018.10
2018年10/29 (月)~11月2日の日程で、中国セミナーを実施した。
本事業の研究課題「現代に生きる“手漉き紙と芸術表現”の研究」に関する、拠点形成事業の3回目のセミナーである。
セミナーは大連民族大学で行い、同大学のネットワークを通じて、古来の中国紙研究と本研究のテーマである“紙からつくる芸術表現”に関する目的の周知につながるセミナーとして開催した。関係国の拠点機関でセミナーを行うことにより、各国の紙文化への理解を深めるとともに、本事業の協力体制を強固にし、研究交流活動から関連した研究の推進や教育環境の整備を誘発できる成果があがることを目標に実施した。
10月30日 中国セミナー 大連民族大学
10月31日~11月1日 視察調査 南京博物館、中国宣紙博物館、上海博物館
セミナー参加者
◉日本:柴崎幸次、佐藤直樹、鈴木美賀子、浦野友理、岩田明子、兪期天、大柳陽一、周業欣
◉ウズベキスタン:Bekhzod Khadjimetov、Dilfuza Djumaniyazova、Fazilat Kodirova
◉中国:周思昊、金青松、王玲
◉韓国:朴允美
◉大連民族大学:コーディネーター馬春東教授、デザイン学院院長、副院長を中心に、多くの先生方、学生の協力を頂いた。
1, 10/30(火)中国セミナー
[写真]中国セミナー 大連民族大学でのセミナー会場
・デザイン学院ロビー展示スペースにおいて研究参加者の作品展を行った。
[写真]和紙、韓紙、参加メンバーの作品など
[写真]岩田明子、截金を使った作品
[写真]ウズベキスタン芸術大学のミニアチュール作品
[写真]ウズベキスタン芸術大学のミニアチュール作品
[写真]大連民族大学、周「中国国内の紙工房とその製法について」に関連する資料。現在の中国紙。
[写真]阪野准教授の作品
・デザイン学院内の研究室を見学
[写真]デザイン学院内の研究室を見学
・一階ロビーで展覧会開始の挨拶(周、デザイン学院院長、副院長、柴崎挨拶とセミナーメンバーの紹介)
[写真]展示会場での撮影
・大連民族大学より歓迎昼食会(大連民族学院ホテル)
・学内を見学(食堂、学生寮など)
セミナー:「現在に生きる手漉き紙と芸術表現の研究~サマルカンド紙の復興を中心に~」開幕、挨拶
[写真]会場の風景。多くの学生研究者がセミナーに参加した。
・レクチャー1:柴崎幸次「サマルカンド紙の現在」
[講演概要]
研究の概要とサマルカンド紙の調査結果を中心にこれまでの研究成果を発表。本研究の関連性として、世界の紙の伝播とサマルカンド紙の位置づけを解説し、世界の紙サンプルがついた世界地図を当日配布し紹介した。
[図]当日配布した、世界の紙の伝播の図と紙サンプル台紙
・レクチャー2:Bekhzod Khadjimetov「ウズベキスタンの細密画」
[講演概要]
ウズベキスタンの細密画の歴史に関するレクチャー。歴史的な流れとウズベキスタンの現代絵画への潮流をまとめて紹介した。サマルカンド紙は、細密画表現に関する文化とも関連している。
・レクチャー3-1:朴允美「朝鮮王朝記録書の復元研究について」
[講演概要]
朝鮮時代第25代国王の472年間の歴史を年月日の順に記録した本であり1,893巻、888冊に構成、国宝第151号に指定されて1997年にはユネスコ世界文化遺産に登録となっている。現在はソウル大学校の※奎章閣(ギュジャンカク)と国家記録院に分けて保管されている。
実録の複製本の制作に関して紙から表紙の再現までの解説を行った。複製の韓紙は国内で生産した1年生の楮を使用して、煮熟は灰汁を使用する伝統方法で、漂白剤は使用せず、ウェバル(横漉き手漉き技法)方法で紙を作った。
[写真]檀国大学校 朴允美助教授の調査報告
・レクチャー3-2:鈴木美香子「メトロポリタン美術館所蔵のミニアチュールについての報告」、岩田「平安仏画を支えた素材と技法について」
[講演概要]
鈴木「ウズベキスタン現地調査と海外美術館における所蔵作品~イスラーム写本絵画~」
2017年より手漉き紙、写本に関するウズベキスタン現地調査に3度同行した。この調査で訪れたサマルカンド博物館、ブハラ国立博物館、科学アカデミー、イスラーム大学が所蔵する写本絵画について報告した。また2018年9月にメトロポリタン美術館、クリーブランド美術館において写本絵画の熟覧調査を行ったので、あわせて紹介した。
岩田「平安仏画を支えた素材と技法について」
ミニアチュールが金箔を用いた宗教絵画であることに関連して、日本の截金技法を用いた平安仏画について紹介した。緻密な模様と光沢のある紙が作るミニアチュールの美しさと同じく、平安仏画の繊細で優美な表現には表現技法の特殊性と共に基底材となる絵絹の質が大きく影響している。
レクチャーでは截金技法の手順についてと当時の絹は現在市販されている絵絹よりも絹目が細かく平滑な絹が作られていたことが近代の先行研究で分かっていることを説明し、サマルカンドペーパーの研究のように技法と素材の研究が現存作品の理解と保存に必要なものであることを発表した。
[写真]岩田明子、鈴木美賀子非常勤講師の調査報告
・レクチャー3-3:佐藤直樹「文字のデザインと素材について」
[講演概要]
「漢字」は、その発生からおよそ3,500年のときを経て、時代とともにその形状(字形)を少しずつ変化させながらも、当初の造形原理を未だに保持する世界でも稀な文字体系です。
経年による字形の変化は、その文字を使用する人々の気性(ヒト)や、その人々によって形成される社会の状況(コト)などに拠るところが大きいことは当然ですが、文字を書写する用具や素材といった媒体(モノ)にもまた大きく影響されています。
「紙」は言うまでもなく書写媒体です。「紙」の在り方が、人間の芸術表現の在り方に多大な関与を及ぼしている、という観点から、あらためて「紙」という存在に着目してみましょう。
[写真]佐藤直樹准教授の講演風景
・レクチャー3-4:周思昊「中国国内の紙工房とその製法について」
[講演概要]
・周、ベグゾット、柴崎、挨拶
・周業欣、映像作品上映、解説
映像1:中国の伝統的な手漉き紙―宣紙
本作品では、中国の代表な伝統的手漉き紙―宣紙を主題として制作した。地域環境と歴史を結合し、手漉き紙の文化を表現する。地元の風景を描いた場面は、伝統的な中国山水画の「平遠」という構図法を模倣し、固定撮影の手法を用いた。特に、青檀(せいたん)という原料の処理と製紙工程を詳細に描写した。
映像2:中国の伝統的な手漉き紙―竹紙
逸古斎(いこうさい)という竹紙の工房を基点として、生産工程の紹介だけでなく、職人と紙漉きの関係、継承の問題など、現実環境と心の世界を組み合わせ、紙の文化を表現した。ドローンを使い、伝統的な構図や撮影の限界から逸脱し、俯瞰の角度から、自然環境と竹紙工房との関係を十分に表した。竹の原料を処理する場面は、追跡撮影の手法を使い、カメラと被写体と一緒に移動し、現場の雰囲気を完全に表した。
[写真]映像2:中国の伝統的な手漉き紙―竹紙
・セミナー展覧会閉幕挨拶、参加証書授与。(名前入りの参加証書と学生制作の伝統服のデザイン集)
・作品撤収は学生の協力を得て。
・以降、交流会
2, 10/31(水) 視察調査1 南京博物館
大連~空路で南京に移動
・南京博物院見学
[写真]南京博物院見学の際の記念撮影
・江蘇省夫子廟景区着、昼食
[写真]江蘇省夫子廟景区の古い街並みを生かした景観
・査済へ移動(宿泊)
[写真]宿泊地の安徽省査済博物館徽荘客桟(中国安徽県宣城涇県査済博物館内)
3, 11/1(木)視察調査2 小嶺村宣紙製紙工場・中国宣紙博物館
・小嶺村宣紙製紙工場見学
[写真]小嶺村の石碑前で、集合写真を撮影
・曹一松氏の簀編み工房着、簀編みや竹の加工の見学
[写真]新たな簀を発注する為の打合せ。
[写真]見事な手さばきで、竹を裂いていく。
・宣紙博物館見学
[写真]青檀の天日干し風景。博物館周辺にこの光景が広がる。
[写真]青檀の叩解。機械に強い打ち込みの音が響き渡る。
バスで上海へ移動
4, 11月2日 (金)上海博物館
ウズベクメンバー3名帰国
上海博物館見学
日本帰国