文部科学省委託事業 標準規格の拡大教科書等の作成支援のための調査研究 「拡大教科書の効率的な作成方法について」 平成23年3月
目次
本報告書は、文部科学省の委託事業として、愛知県公立大学法人愛知県立芸術大学が実施した平成22年度「標準規格の拡大教科書等の作成支援のための調査研究」の成果を取りまとめたものです。
従って、本報告書の複製、転載、引用等には文部科学省の承認手続きが必要です。
文部科学省委託事業
標準規格の拡大教科書等の作成支援のための調査研究
「拡大教科書の効率的な作成方法について」報告書
研究代表者 柴崎幸次
平成23年3月
著作:愛知県立芸術大学 美術研究科 デザイン領域 柴崎幸次研究室
執筆者:柴崎幸次 伴秀之 須藤遙子
発行:愛知県立芸術大学 美術研究科 デザイン領域 柴崎幸次研究室
愛知県愛知郡長久手町大字岩作字三ヶ峯1-114
TEL:0561-62-1180 FAX:0561-62-0083
http://www.aichi-fam-u.ac.jp/
http://labo.a-mz.com/
はじめに
本報告書は、文部科学省から受託した平成22年度「標準規格の拡大教科書等の作成支援のための調査研究」(以下、本研究)について、最終報告書としてまとめたものである。
本研究は、「拡大教科書の効率的な作成方法について」を課題として、拡大教科書を出版する教科書発行者及び、教科書のDTPデータを扱うことが可能な契約関係にある拡大教科書の製作者が、ローコストでクオリティの高い拡大教科書の製作を実現するのを目標として掲げている。教科書発行者は、弱視児童や教員というユーザーにとって、授業に使いやすい拡大教科書を作成するという努力義務を負う。同時に、通常の教科書と同等のクオリティを保ちつつ、コストがかかり過ぎないように効率よく拡大教科書を製作することが求められる。このような困難な条件をクリアするために、本研究では、教科書発行者が現在持っているDTPデータを利用した拡大教科書を作成する方法と、さらにそのデータを活用し、電磁的記録等のための教科書データのテキストデータ抽出・画像データ抽出の簡便な方法を提示する。
また、将来的なビジョンとして、電子書籍等へのデータ変換について汎用性のある教科書データのあり方についても提案を行う。弱視の症状にはかなりの個人差があることが指摘されており、標準規格よりもさらに大きい文字の教科書や白黒反転の教科書を求める声もある。昨今では、タブレット型パソコンなどに対応した電子書籍やPDFなど、より多様でアクセシブルな教科書も検討されている。よって、汎用性のあるデータの活用が、さらに求められるようになっていくだろう。
こうした背景から、本研究においては、各種媒体への様々な展開を視野に入れた、情報としての教科書内容そのものを「教科書コンテンツ」としてとらえる。「出版物としての教科書」の製作から「コンテンツとしての教科書」の製作へと発想を転換することで、拡大教科書製作や電磁的記録の作成方法等において現在起こっている問題の解決と、今後予想される教科書設計そのものの変化に対応が可能となるのではないかと考える。
以上のような考察・仮説のもとに、5か月にわたる研究の成果をまとめた。本報告書の構成は、以下の通りである。
第1章は本研究の概要として目的、社会的背景、実施体制、スケジュール等について報告し、教科書発行者による拡大教科書の概要をまとめている。
第2章は、本研究をより現状に即した実質的研究とするために、教科書発行者へのヒアリング及び調査を行った結果をまとめた。平成23年度の新課程における小学校教科書を発行する出版社10社を調査対象とし、教科書発行者のDTP体制や拡大教科書に対する取り組みについて調査した結果である。
第3章は、具体的な作成方法の研究に入る前に検証した原本教科書のレイアウト構造についてまとめている。そもそも教科書とはどのような構造で制作されているのか、各教科の特性はいかなるものなのか、などを分析することにより、拡大する際のポイントや注意点などを明確化するための基盤研究として位置づけている。
第4章は【研究1】として、テキストデータ、画像データ、レイアウト、ページ構成など、教科書製作時の各段階における問題点を明確化し、個別の対処方法を明示する。その後、原本教科書DTPデータから効率的に拡大教科書を作成するための具体的な方法について述べる。
第5章は【研究2】として、【研究1】で拡大教科書製作のために一元化した原本教科書DTPデータを構造化し、さらに汎用性を広げることを提案する。各種拡大教科書に加え、オーダーメイドの拡大教科書の作成、テキストの抽出、図・写真等の抽出、将来的には電子書籍へのデータ変換を効率よく行うことが可能な汎用性のあるデータを想定し、その仕様や作成方法に関する研究についてまとめる。
おわりに本研究全てを総括し、今後の展望と課題について述べる。