文部科学省委託事業 標準規格の拡大教科書等の作成支援のための調査研究 「拡大教科書の効率的な作成方法について」 平成23年3月
1 事業概要
1.1 研究の概要
(1)目的
現在の拡大教科書の製作は、(a)ボランティア団体などが、自ら入力・複写または教科書発行者から提供されるPDFのデジタルデータを使って拡大教科書の作成を実施している場合、(b)教科書発行者が独自に標準規格にもとづいた拡大教科書を作成する場合、の2つが主流である。両者とも、その製作には膨大な時間と手間が掛かっていることが多い。(a)のボランティア団体が作成する場合は、PDFデータからテキストや画像など、正常なデータ変換が困難な場合が多い。また、(b)教科書発行者が作成する場合も、レイアウト変更やDTPデータ等の書体変換、また外字・独自書体・数字・英字等の変換効率が悪いため、非常に手間がかかっている。その上、これらの校正にも時間がかかっており、教科書発行者による拡大教科書作成のトータルコストが下がらない理由の一因になっている。
本研究は、拡大教科書を出版する教科書発行者及び、教科書のDTPデータを扱うことが可能な製作者が、これまでの製作方法における問題を見直し、ローコストでクオリティの高い拡大教科書の製作を実現することを目標にしている。教科書のDTPデータを活用した拡大教科書の作成方法の研究と、教科書データのテキストの抽出、写真・図表等の抽出、また将来的な目標として電子書籍等へのデータ変換等について研究するものであり、次代の教科書そのもののページデザインへの方法論を考察することを目指している。
(2)方法と内容
本研究は、以下の3項目の調査・分析・考察から研究をすすめた。
①教科書発行者へのヒアリング及びアンケート調査
(a)原本教科書発行に関するレイアウトデザインの方針と体制、(b)原本教科書及び拡大教科書出版に使用するソフトウエア・ハードウエア環境、(c)印刷、製本、その他。主に小学校新課程の教科書について調査を行う。
②【研究1】既存のDTPデータを使用し拡大教科書を作成する方法を検証
【研究1】は、主にデータを一元化することによって、一括変換、スタイル設定等の機能を使い、効率良く、標準規格等の拡大教科書(標準規格タイプ+レイアウトの同じ拡大版)を作成する方法をケーススタディとしてまとめる。拡大教科書は、言わば原本教科書の複製でもあるので、同じファイルフォーマットでDTPソフトウエアの機能を駆使すれば、効率よく拡大教科書の作成が可能になるという仮説のもとに行う。
③【研究2】教科用特定図書等作成のための汎用性のある教科書データの研究
【研究2】は、一元化された原本教科書DTPデータに含まれる教科書の情報をさらに構造化し、様々な用途に使用可能な教科書データに関する研究を行う。次代の教科書データを作成するための基礎的な研究として本研究を位置づけ、各種拡大教科書やオーダーメイドの拡大教科書の作成、テキスト・図・写真等の抽出、いずれは電子書籍へのデータ変換に至るまでの作業を効率よく行うことを視野に入れている。
1.2 研究の体制
(1)研究グループ
本研究グループは、調査研究の実施、拡大教科書の効率的な作成方法に関する調査研究委員会及び情報交換会を運営するとともに、定例会を開催して各自の調査研究の進捗状況を報告しながら研究を進めてきた。研究員は以下の通りである。
柴崎 幸次 愛知県立芸術大学美術学部デザイン専攻准教授 研究代表者 報告書執筆
伴 秀之 東京工芸大学非常勤講師、研究2担当、研究1補助、報告書執筆
須藤 遙子 愛知県立芸術大学非常勤講師、教科書発行者ヒアリング、報告書執筆
中島 啓之 愛知県立芸術大学非常勤講師、研究1担当
岩田 光令 DTPデザイナー、研究補助、報告書作成
太田 晶 DTPデザイナー、研究補助
三浦 慶嗣 愛知県立芸術大学芸術情報課事務局担当
(2)調査研究会委員
本研究のあり方に関する協議・検討、研究の進行管理・情報交換、研究結果の分析、教育現場での効果等の検証について、拡大教科書の効率的な作成方法に関する調査研究委員会の委員として9名を選出した。委員の意見やアドバイスは、各所で調査研究内容に反映されている。委員は以下の通りである。
高柳 泰世 NPO法人愛知視覚障害者援護促進協議会理事長
宇野 和博 筑波大学附属視覚特別支援学校教諭
吉田 元彦 名古屋市教育委員会特別支援指導主事主幹
福尾 浩 株式会社新興出版社啓林館第4編集部部長
金子 純朗 教育出版株式会社デジタル統括本部デジタル制作・管理室室長補佐
兒嶋 直也 愛知県尾張旭市立本地原小学校校長
安藤 修 愛知県立名古屋盲学校校長
(3)調査研究委員会等の開催記録
①拡大教科書の効率的な作成方法に関する調査研究委員会(第1回)
日時 平成22年11月30日(火) 15:00~17:00
場所 愛知県立芸術大学サテライトギャラリー会議室
次第
- 挨拶、研究概要説明
- 委員会の組織について
- 委員会の検討事項について
- 委員会の規定について(傍聴の可否、会議資料及び議事概要の公開等)
- 研究及び報告のスケジュールについて
- 委員からの提言
- 拡大教科書の効率的な作成方法に関する調査研究の内容について
- 教科書発行者へのアンケートについて
- 研究1「既存のDTPデータを使用し拡大教科書を作成する方法の検証」について
- 研究2「教科用特定図書等作成のための汎用性のある教科書データの研究」について
- 意見交換
②拡大教科書の効率的な作成方法に関する調査研究委員会(第2回)
日時 平成23年3月8日(火) 14:00~17:00
場所 愛知県立芸術大学サテライトギャラリー会議室
次第
- 挨拶、研究経過説明
- 報告 情報交換会について
- 研究報告1 【教科書発行者のヒアリング】実施状況について
- 研究報告2 【研究1】について
- 研究報告3 【研究2】について
- 意見交換、委員からの報告
- 高柳委員
- 安藤委員
- 報告書の作成について
③情報交換会『教科用特定図書等作成のための教科書データ活用の研究会』について
拡大教科書をはじめ、これからの教科書データ活用についての意見交換の場として、本研究グループメンバーと株式会社新興出版社啓林館、教育出版株式会社及び株式会社モリサワの教科書データ関係者で以下のとおり研究会を開催した。本情報交換会ではDTP技術やデータ構造化、汎用性のある教科書データの概念構築などを中心に主に技術的な内容のレベルアップを目標とした。
日時 平成23年2月1日(火) 14:00~17:00
場所 愛知県立芸術大学サテライトギャラリー会議室
次第
- 【研究1】について
- 原本教科書DTPデータからの効率的な拡大教科書DTPデータ作成方法の具体例
- 理想とする原本教科書DTPデータ
- 今後考えられる効率的な拡大教科書DTPデータ作成方法
- その他、現行の教科書内容の拡大化に関しての様々な留意点など
- 【研究2】について
- 汎用性のある教科書データの研究概要→データ構造化についての概念
- 汎用性のある教科書データからテキスト、図表等の抜き出しワークフロー検証
- 汎用性のある教科書データから拡大教科書を再構築する場合のワークフロー検証
- 汎用性のある教科書データから電子書籍などの書き出し→MCbook、EPUBの検証
- その他
- 参加企業の発言 (啓林館、教育出版、モリサワ、今後の電子書籍の方向性など)教科書発行者に実施するアンケートについて
(4)スケジュール
11月 |
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12月 |
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1月 |
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2月 |
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3月 |
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(参照:6.1 研究実施スケジュール)
1.3 教科書発行者の発行する拡大教科書について
(1)経緯と概要
教科書発行者の発行する拡大教科書は、2008年6月「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律」(いわゆる「教科書バリアフリー法」)の成立以降、小中学校の範囲では同年12月に公表された標準的な規格にもとづく拡大教科書の発行が努力義務として定められ、2011年の小学校教科書(平成23年度使用)改訂時にはほぼすべての拡大教科書が発行される。中学教科書においても、2011年(平成23年度使用)は原本教科書135点中拡大教科書発行81点と、約6割の拡大教科書が整備されている。このように、小・中学校の拡大教科書に関しては、中学の教科書が改訂される2012年度にはさらに進展が予想される。
これに対し、高校に関しては現在のところ未整備の出版社がほとんどである。標準規格において高校段階での拡大教科書は、いわゆるレイアウト変更型の拡大教科書と単純拡大の教科書の2種類が想定されている。しかし、そもそも原本教科書の情報量の多さからかんがみ、標準規格に沿った教科書となると膨大なページ数、分冊数が予想され、作成の労力やコストに加え、実際に使い勝手のよい教科書になるのかなど様々な課題を抱えている。しかし、小中学校の拡大教科書の充実に合わせ、高校の拡大教科書の希望者は多くなると予測され、拡大教科書事業の全体像を見渡した確認が必要な時期であることがうかがえる。
現在、拡大教科書の作成にあたっているのは、教科書発行者とその他のボランティア団体等の2つである。教科書バリアフリー法施行には、従来から拡大教科書の作成にあたってきたボランティア団体等では需要にこたえきれなくなり、教科書発行者による拡大教科書の出版が求められたという経緯がある。このような経緯から、本研究では両者の役割の違いを次のように位置づけている。
- 教科書発行者:
- 標準規格にもとづく拡大教科書作成により、ニーズの大半をカバー。
- ボランティア団体及びその他の拡大教科書発行者:
- 弱視児童生徒へのセミオーダー仕様、白黒反転、特に大きい文字などの特殊なニーズの教科書、副読本等、発行者から拡大教科書が出版されていない高校教科書の作成。
以上のことから、教科書発行者により出版される拡大教科書の役割は、非常に大きいと考えられる。
(2)標準規格
標準規格の主な仕様は図1の通りである。
- 【図1 標準規格のまとめ】
※詳細は『障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律第六条第一項の規定にもとづき定める教科用拡大図書の標準的な規格』を参照
- 【図2 原本教科書と各種拡大教科書の主な文字サイズ、判型サイズの一覧】
(3)教科書発行者による拡大教科書
教科書発行者による拡大教科書は、上記のように標準規格にもとづいて作成されているが、より詳細には以下の3パターンに分類することが可能である。
①レイアウト変更型の拡大教科書(標準規格)
レイアウト変更型の拡大教科書とは、標準規格にもとづいて教科書発行者が出版する拡大教科書を指す。標準規格に則った場合、原本教科書からレイアウトを大幅に変更せざるを得ないので、本研究ではこのように称する。
- 【図3 標準規格拡大教科書(教育出版(株)、中学国語算数)】
②単純拡大型の教科書
単純拡大型の教科書とは、版のサイズを拡大することで単純に原本教科書を拡大した教科書である。高校の標準規格では、原本教科書を単純拡大した拡大教科書が規格の一つとされている。
③レイアウト重視型の拡大教科書、その他
レイアウト重視型の拡大教科書とは、①のレイアウト変更型の拡大教科書に対し、最大限に原本教科書のレイアウトを維持したまま拡大した教科書のことである。教科書発行者が発行する教科書の中では、独自の仕様を持っているものがある。標準規格では、例えば原本レイアウトのままの拡大教科書や30ポイント前後のニーズには対応できないことになる。特殊な例では、(a)25ポイント前後(低学年は30ポイント前後)のレイアウト変更型、(b)その1.2倍拡大タイプ、(c)17ポイント前後の原本レイアウト重視型(低学年は21ポイント前後)、の3タイプが発行されている。また、各学年におけるポイント数でも、標準規格より広くカバーする工夫を凝らしている。
- 【図4 レイアウト重視型の拡大教科書((株)新興出版社啓林館、小学算数理科)】