文部科学省委託事業 標準規格の拡大教科書等の作成支援のための調査研究 「拡大教科書の効率的な作成方法について」 平成24年2月

3 原本教科書及び拡大教科書のレイアウト検証

3.1 教科別のレイアウト検証 昨年度研究のまとめ

本章では、昨年度の研究に引き続き、原本教科書と拡大教科書のレイアウトについて検証する。

教科書は、編集者とデザイナーらが協議を重ねながら、2〜3年の歳月をかけて作成されるが、内容からトータルなレイアウトデザインまでを含む 「教科書コンテンツ」は実際の教育に成果があがるように多くの工夫がされている。原本教科書のDTPデータから拡大教科書を作成することは、原本教科書の 編集意図を網羅した形で拡大教科書に「再編集」することである。つまりこれは、原本教科書をよりよくするための様々なデザイン、イラストの使用、レイアウ ト、オリジナル書体の作成、書体選定のなど、各教科書の特徴が拡大教科書の作成の難易度に大きく関係してくることを意味する。

原本教科書のDTPデータ構成は、小中学校の教科書では1 冊あたり150 ページ前後におよぶ書籍と同様の複数ページデータとなる。教科書DTPデータの形式には、1 ファイル構成、複数ファイル構成の2 種類がある。レイアウトの要素は、テキスト情報、図表、写真の3つに大きく分類できる。InDesign を使用してDTP データを作成する場合、テキスト情報はページ上に直接文章入力、図表はベクトル画像編集ソフトであるIllustrator を利用して作成、写真はビットマップ画像編集ソフトであるPhotoshop を利用して加工するのが通常である。

原本教科書で使用されるソフトは、本報告書[2.6アンケート調査のまとめ]に述べているように、原本教科書の印刷用DTPデータは主に InDesignで編集され、単ページの編集や各ページの図表・イラストレーションなどはIllustratorが使用されている。また数式や音符などの 特殊記号は、MathMagicやFinaleなどの専用ソフトを使用している場合もある。こうした状況から、昨年度の報告書[3.2原本教科書DTP データの構成]での分析において、各教科書DTP データ制作環境の互換性を重視することやページレイアウトソフトを採用することの重要性を述べてきた。

今年度は、昨年度の国語、算数、理科のレイアウト検証に引き続いて社会と英語の分析を行い、主要教科における教科別のレイアウト特性としてまとめることとする。

図35 ページレイアウトデータにおけるファイル構成
図35 ページレイアウトデータにおけるファイル構成
図36 ページレイアウトデータと外部ファイル
図36 ページレイアウトデータと外部ファイル

3.2 教科別のレイアウト検証

教科書の文章構成は、一般的に表紙・序文・目次・章・節の単位に分けられており、大きくは本文・索引・奥付の順で構成されている。また教科書の 特徴として、学習の手引きや展開、付録・資料、練習問題、解答などが、章の末尾や巻末に入る場合がある。これらの教科書の文書構造は、以下のような階層図 式で示すことができる。

図37 教科書の文章構成
図37 教科書の文章構成
図38 教科書の文章構造(階層例)
図38 教科書の文章構造(階層例)

教科書によっては章・項・節が数字で区分されているものもあるが、各表題を割り当てている。それらの教科別のレイアウトに関する特徴と、標準規格における各教科の特記事項を併記する。また、例に挙げたページには、教科書の情報の流れを矢印で明示することとした。

(1)社会

中学校の社会は地理、歴史、公民に分かれており、解説や授業案の表現が様々で章ごとに構成が異なる場合もある。章の中には複数の節や項が含ま れ、表現も多岐にわたっている。主要なページ構成は、見開き2ページで一回分の授業項目が完結するレイアウトが多用されている。地図や写真と文章を照合す る図説や、法律などを示した横長の図や表など、見開きや観音開きのページ構成が他の科目に比べて多いのが特徴である。ページによっては、イラストキャラク ターを用いた表現や、社会問題などを扱う事例に対する様々な意見の紹介などが、ページ全体にわたって表現されている場合もある。
また、関連事項が観音開きで横長に展開している構成や、見開きページの上に、さらに次のページの見開きに及ぶ図もある。社会の関連としては地図帳もある が、拡大すると複数ページにおよぶ内容が多く、学習上のまとまりを考慮して拡大する必要性が他の教科以上に求められる。

標準規格における英語の特記事項
文字の字体 文字の字体(アルファベット等の字体)

  • アルファベットの字体については、原則はゴシック体とする。
  • ブロック体、イタリック体等で示されているものについては、その字体とする。ただし、見えやすいように、線が太いものを用いる等、配慮する。
  • 発音記号については、見えやすいように、線の太いものを用いる等、配慮する。
図・写真等 (巻末資料)

  • 巻末資料の単語集等、各分冊で使用することになるものについては、別冊にする等、配慮する。
図39 社会の教科書の文章構造
図39 社会の教科書の文章構造

40-1 40-2
本文のページ例 イラストや写真が最初に掲載され、後に本文が始まっている。本文の内容を写真や事例を照合しながら読む要素が強い。見開き2ページにわたる大きな写真が使用されることもある。

40-3 40-4 40-5 40-6
本文のページ例 様々なレイアウトが存在し、見開きでほぼ完結している。イラストキャラクターによる吹き出しなどの文章も教科書の内容の一部となっている。

40-7 40-8
特殊なページ例 片観音開きで内容が横長に構成されていたり、すべて見開きでレイアウトされていたりする。

図40 社会のページレイアウト特性

(2)英語

英語は、欧文と日本文の組み合わせで表現されており、左開き横組み版で構成されている。本文は、学習項目を主題に登場人物の会話と解説を中心に 構成されているので、情報の流れ自体は比較的単純である。しかし場面説明、単語、会話文、関連問題など補足的な要素が多いという特徴がある。 Reading(読み物)のページは、小説のように一定の流れで編集されている。

レイアウト構成は、全体的に見開きでデザインされており、一つの見開きで一回の授業が完結する編集方針のものが多い。また、原本に使用されている欧文書体の種類が多いことも一つの特徴である。

人物イラストを使った対話文型式の表現が多く、その内容を中心に補足的な要素がページの両サイドや下部にレイアウトされている。対話文中心の ページに加え、アルファベット表や、見開きページによるActivity(会話を伴う設問等)の解説は,情報の順番が見開きを交互に移動する構造になって いる場合もある。その他、楽譜(歌)リスニングの練習問題などのページもある。

標準規格における英語の特記事項
文字の字体 文字の字体(アルファベット等の字体)

  • アルファベットの字体については、原則はゴシック体とする。
  • ブロック体、イタリック体等で示されているものについては、その字体とする。ただし、見えやすいように、線が太いものを用いる等、配慮する。
  • 発音記号については、見えやすいように、線の太いものを用いる等、配慮する。
図・写真等 (巻末資料)

  • 巻末資料の単語集等、各分冊で使用することになるものについては、別冊にする等、配慮する。
図41 英語の教科書の文章構造
図41 英語の教科書の文章構造

42-1 42-2
本文のページ例 会話中心に本文が展開されている。見開き2ページに全体を見る必要がある。

42-3 42-4 42-5
演習・問題などのページ例 レイアウトは様々であるが、一定の情報の流れが読み取れる。

42-6
リーディングページの例 情報の流れが単純で分かりやすい。

図42 英語のページレイアウト特性

3.3 まとめ

昨年度の研究においても指摘しているが、教科書レイアウトの分析結果として、「読む教科書」と「見る教科書」の2種類が存在すると指摘できる。 「読む教科書」とは、縦書き横書きなどの基本的な造本設計に則した情報の流れがある教科書である。一方「見る教科書」とは、ページを開いたままで1時間の 授業を行えるようにという配慮から、節や項などの単位を見開き2 ページに納めるレイアウトが大半の教科書を指す。いずれの場合にも、拡大教科書の編集の際にこれらの編集方針に則した一定の配慮が必要であることが指摘で きる。

また、このような編集の特徴はページごとのレイアウトにも表れている。1項目1見開きの構成に限らず、特殊なレイアウトとしては、片観音開きま たは両観音開きでまとまった内容を見せるページなども存在する。これらはいずれも「見る教科書(ページ)」として分類することが可能だろう。

科目ごとの特性としては、国語や英語などは情報の連続性がある程度確保されており、「読む教科書」という要素が強い教科書であるといえる。算数に関 しても、本文の文字と設問が続く内容なので、情報の流れがシンプルな「読む教科書」として分類できる。ただし、大きく構成を変えてレイアウトしているペー ジでは、全体を俯瞰する要素の強い編集方針となっており、「見る教科書(ページ)」の要素も複合しているといえるだろう。理科や社会に関しては、図・イラ スト・写真そのもので解説される内容が中心であるが、同時に説明文の文字情報も多い。これらは1項目1見開き単位でデザインされており、全体を俯瞰して見 る要素が多く、「見る教科書(ページ)」に分類可能である。特に小学校ではその傾向が顕著に表れており、1見開き単位の中に図・イラスト・写真が多用さ れ、さらにそれらと関連する文字情報も多く、フォントの種類や大きさも含めて様々な工夫がなされている。よって、理科や社会は拡大教科書を作成する場合の レイアウトの定型化が難しい科目であるといえるだろう。

全科目の共通事項として、学年が進むにつれて文字情報は増大し、図・イラスト・写真は相対的に減少していく傾向があるが、一方で算数(数学)・ 理科・社会などは複雑で情報量が多い図説として表現されるケースが多くなる。拡大教科書を作成する場合、文字が大きくなるとページ数の増加などが起こる が、この際に原本教科書のレイアウトが大きく崩れることになり、ページ構成の意図に沿って的確に拡大できていないと意味が解りにくくなってしまう。また、 そもそも原本教科書の情報順位が編集側において明確でないと、拡大教科書作成を外注会社が請け負う場合にさらに問題が増大することになる。

本章では、原本教科書のレイアウト分析において「読む教科書」「見る教科書」という独自の視点を見出したが、これらの視点は拡大教科書作成の際 に効率化に寄与するのみならず、質の向上にも関係してくると考えている。また、そもそも拡大には不向きなページが存在しており、機械的に拡大教科書を作成 するなどの一定の拡大方針が適応できるものではないことが確認できた。