文部科学省委託事業 標準規格の拡大教科書等の作成支援のための調査研究 「拡大教科書の効率的な作成方法について」 平成24年2月

おわりに

おわりに

本研究は、昨年度の研究とあわせて、「拡大教科書の効率的な作成方法について」をテーマに教科書発行者へのヒアリング及びアンケート調査から、発行に関する具体的な問題の抽出とその解決方法を中心に研究を進めてきた。

平成20年6月に成立した「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律」以降、小学校は平成23年度の新課 程、中学校は平成24年度の新課程分の発行により、ほぼすべての拡大教科書が出揃うことになる。速やかに発行する必要があった前課程版拡大教科書の発行と あわせ、今回で2回目の拡大教科書の発行が完了することになるが、今後、様々な弱視者ユーザーによる使い勝手などの調査や拡大教科書の発行と供給の状況調 査など行い事業全体を点検する必要があるだろう。また今後の課題としては、高校版拡大教科書の発行や弱視以外の特別な教科書のニーズに対してどのように答 えていくのかなどの課題もある。
現在の仕組みのままで拡大教科書の作成・発行・流通などの方法を見直したとしても効率的な作成には限界があり、多大なコストや労力、時間がかかる状況は避 けられないと思われる。今後は弱視生徒の拡大教科書使用状況を見極め、読みやすさ・使いやすさの追求と同時に、有効なデジタルツールの併用なども考慮した 標準規格の再検討を行うことも必要ではないだろうか。

また、汎用性のある原本教科書DTPデータの重要性についてはすでに述べてきたが、昨今はデジタル教科書の議論が盛んであり、総務省のフュー チャースクール構想や文部科学省の学びのイノベーション事業など、一人一台のデジタル端末の研究も進んでいる。よって教科書のデジタル化を見据えた取り組 みが急進することも予想されるが、このように教科書のニーズが多様化する現状をふまえ、教科書そのもののデータ活用については本腰を入れて再考すべき時期 にきているのは明白である。

今後は教科書自体のあり方にさらにユニバーサルデザイン化が求められ、すべての生徒が同じ教科書で学べる教育環境の実現が理想となってくるだろ う。こうした時代に備えて、教科書発行者はデジタル技術の活用による効率化、コストダウン、ICT活用による付加価値の追求などを行う必要がある。現状の 施策への対応と合わせ、教育の将来ビジョンとしての教科書づくりに対応できるデータ仕様の作成が、今後の教科書発行者の資産になっていくと考えている。

最後に、本研究を進める上で教科書発行者の方々と様々な意見を交わしてきたが、拡大教科書発行の取り組みに対し、各社が多大な努力と工夫をして いることがヒアリング及びアンケートの結果からも読み取ることができる。各社が丁寧によく協議して拡大教科書の作成に取り組み、数年前までのボランティア 団体のみで拡大教科書を作成してきた状況とは大きく好転したと実感している。本研究のヒアリング調査に協力して下さった㈳教科書協会をはじめ、東京書籍 ㈱、大日本図書㈱、開隆堂出版㈱、学校図書㈱、㈱三省堂、㈱教育芸術社、㈱清水書院、光村図書出版㈱、㈱帝国書院、日本文教出版㈱、㈱学研教育みらい、そ して委員として参画した㈱新興出版社啓林館と教育出版㈱には、特別の謝意を示したい。また、電子書籍化への実験としてソリューションの貸与などの協力をい ただいた㈱モリサワにも同様に感謝したい。

さらに、本研究を進めるにあたって、昨年と同様に調査研究委員の皆様には大変お世話になった。本年度に関しては、研究規模の縮小もあって実際の委員会は1度の開催となったが、期間中に多くの貴重な意見や情報提供を頂いた。

委員及び各社の努力に敬意を示しつつ、本研究が今後の教科用特定図書等の発展につながれば幸いである。

用語等

  • CSS(Cascading Style Sheets):
    HTMLやXMLの要素の修飾・体裁を指示する表現言語。文書構造言語HTMLと分離して使用する。
  • EPUB:‌米国の電子書籍の標準化団体国際電子出版フォーラムIDPFの公開された仕様の電子書籍用ファイル形式の規格。
  • HTML(HyperText Markup Language):
    ウェブのドキュメントを記述するためのマークアップ言語。
  • IDML(InDesign Markup Language):
    公開されたInDesign互換フォーマット。XMLベースのファイル形式。
  • XHTML(Extensible HyperText Markup Language):
    HTMLをXMLの文法で定義しなおしたマークアップ言語。
  • XML(Extensible Markup Language):
    拡張可能なマーク付け言語。文章構造や見栄えに関するタグ等の指定を、文章とともにテキストファイルに記述する。目的に応じてタグを定義できる汎用的な仕様をもつ。
  • 原本教科書DTPデータ:
    原本教科書の印刷用データ。ページレイアウトデータ、画像ファイル等を含む。
  • 準備データ:
    原本教科書DTPデータを拡大教科書を作成しやすいように編集した制作準備段階のDTPデータ。テキストは段落スタイル等が適用済み。拡大教科書用に書体変更し、また変更後の字体に不備がないよう確認・調整済みの状態にする。
  • 点字教科書:
    視覚障害者のため文章を凹凸のある点字で記述した教科書。紙、フィルムで制作され、図や絵などはエンボスで表現する。
  • ビットマップ画像データ:
    デジタルカメラで撮影したデータやスキャナーで読み取ったイメージデータ。画像編集ソフト(Adobe Photoshop)で編集・加工する。
  • ベクトル画像データ:
    図形描画ソフト(Adobe Illustratorなど)で図表・線画イラスト等を作成したデータ。
  • マルチメディアDAISY教科書:
    デジタル録音図書の国際標準規格による視覚障害者や識字障害者・学習障害者(ディスレクシア)のためのデジタルマルチメディア図書のことで、画面上表示されるテキストを順次ハイライト(強調表示)しながら音声読み上げする機能をもつ。
  • レイアウト変更型:
    拡大教科書の標準規格の基準版(および単純拡大版、単純縮小版)。