目次

第1部 拠点形成事業 「現代に生きる“手漉き紙と芸術表現”の研究~サマルカンド紙の復興を中心に~」 研究報告 (10:00-11:45)

Report on JSPS Core-to-Core Program: The research on the contemporary culture of “handmade paper and artistic expression” Focusing on the revival of Samarkand paper

1 ウズベキスタンとサマルカンド紙(ウズベクの調査研究の紹介、共同研究の報告)

・『世界の紙の伝播とサマルカンド紙』 … 柴崎幸次(愛知県立芸術大学) 

 

・『サマルカンド紙の復元試作』 … 浦野友理(同大学非常勤講師)

ウズベキスタンのサマルカンド紙は8世紀後半、中国から西方のサマルカンドに紙の技術が伝播し、硬筆によるカリグラフィー(書)やミニアチュール(細密画)の支持体として発展したとても美しい紙である。

サマルカンド紙について、ウズベキスタンでは『桑』を原料としていたという認識が強く根付いているが、数少ない資料からボロ布が原料とされる紙『ラグペーパー』だったという説がある。今回、調査結果を参考にし、ウズベキスタンと日本それぞれで入手した『桑』『コットン布』『麻布』を原料に復元試作に取り組んだので、工程を追って説明をしていく。

・『海外調査報告―ミニアチュールを中心に』 … 鈴木美賀子(同大学非常勤講師)

 サマルカンドとその周辺地域で作られた手漉き紙の芸術表現として写本が挙げられる。写本とは印刷ではなく、手書きで写された本である。イスラームを主要な宗教とする地域では造形に関して「偶像崇拝の禁止」と「生物描写の回避」という教義的制約があり、これに抵触しない文様による装飾が発達した。また科学や歴史、文学等多岐に渡る分野の写本が制作されたが、生物画はこれら写本の挿絵として許容され数多く描かれた。本事業においてサマルカンド博物館(図1)、ブハラ国立博物館(図2)、イスラーム大学等ウズベキスタンの主要な施設が展示あるいは所蔵する写本絵画について調査を行った。

・『イスラーム写本の修復』 … 大柳陽一(同大学非常勤講師)

ウズベキスタンにおける写本類の保存管理は、大学や研究機関などでは規定された基準に沿って適切に管理されている。しかしながら、収蔵されている写本のコンディションは良好なものばかりでなく、多様な破損の状態が散見される。本研究は、写本本紙の破損に着目し、それらの修復方法を開発するとともに、将来的な修復作業を支援する方策を検討することにある。本研究で対象とする写本には「コーラン」のように宗教的なものから、裁判記録、仕事や生活の指南書、ガイドブックなどがある。それらの多くには、文字のみならず「ミニアチュール」が描かれている箇所が数多く見受けられる。写本を保存することは、同時に貴重なミニアチュールの保存という側面からも有意義であろう。

本報告では、修復に向けた調査の状況と今後の方向性について示す。修復対象の写本は、製本の崩れ、表紙・本文部分など多様な破損が見受けられる。本来は、破損している部分を全て修理することが望ましいが、我々はまず、写本の本文紙の破損に焦点を当ててその修復方法を検討することとする。紙の破損には「動物類の食害等による紙面の欠損」、「縄・紐などで縛った際の摩擦痕」、「水や泥などの侵食による紙面の汚れ、変形(波打ち)」、「カビの発生による変色」、「紙面中の描画部分(罫線など)に沿った破れ」などがある。これらを「写本本紙の種類」、「写本の保存状況」、「書籍の出自」、「写本の作成地域」、「制作年代や出版年代」、「写本の製本形式」などで分類し、適切な修復の方針を検討する予定である。

2 アジアの紙の現状

・『中国の手漉き紙の現状』 … 周 思昊(大連民族大学・大連)\

紙は2000年前、中国の後漢時代に発明されたと言われている。西にシルクロードを介して中央アジアへ、そして東に韓国や日本にも伝えた。

2000年の歳月を経て、度重ねる社会変遷の洗礼を受け、特に昨今の中国社会が著しく近代化され、激変の渦中にいる今の中国の手漉き紙の現状はどうなっているだろうか。その現状を把握するため、大連民族大学デザイン学院グラフィック研究室が調査チームを結成し、中国全土の手漉き紙の現状調査を3年前から始めた。

この3年間、中国の山東省、安徽省、陝西省、新疆ウイグル自治区、貴州省にある手漉き紙工房を調査した。調査を通して、かつてどこの地域にもたくさんあった手漉き紙工房が現在かなり減少していることが明らかになった。辛うじて生き残った工房もさまざまな問題に直面しているのを目のあたりにした。しかし、そうした状況の中でも、手漉き紙の生き残りにかけて、頑張っている工房にもいくつか出会えた事が救いである。

今回、2019年1月に調査した貴州省の黔東南地域の貴陽市、銅仁市、江口県、印江県、思南県、遵義市、白水村、地捫トン族村、石橋村などを中心に、それぞれの地域にある手漉き紙工房の現状と制作している紙について紹介する。

・『朝鮮王朝実録と韓国の紙工芸』 … 朴允美(檀国大学校・ソウル)

『朝鮮王朝実録』は朝鮮時代25代国王の472年間の歴史を年月日順に記録した本である。士官たちが王の言行を始め、政治・外交・軍事・法律・経済・産業・天文・科学・文学・音楽・宗教など各方面の歴史的な事実を記録した。内容の保安と記録した士官たちの身分保障のために国王でさえ誰も閲覧することはできなかった。

実録は1,893巻、888冊で構成、国宝第151号に指定され、1997年にはユネスコ「世界文化遺産」に登録となった。朝鮮時代には4部コピーが作られ、分散されていたが、現在は2部が現存し、ソウル大学校の奎章閣(ギュジャンカク)と国家記録院に保管されている。奎章閣では数年に渡って朝鮮王朝実録の複製事業を続けている。複製のために韓紙、墨、表紙の織物など素材に関する精密調査と分析を行なった。

実録の大きさは約30×55×15㎝程度である。内紙は韓紙二枚を重ねた状態で上に蠟(ろう)を引き、表紙は韓紙の上に青色の絹をつけ紅色の紐で結んだ。表紙に使用された韓紙の厚みは400〜560㎛で内紙の厚みは300㎛程度である。複製用の韓紙は国内で生産した1年目の楮を使用し、蒸解は灰汁を使用する伝統方法で行った。漂白剤は使用しておらず、ウェバル(手漉き技法)方法で紙を作った。

表紙の織物は絹で平織りに製織されており、織物の密度は15〜39筋/㎝で本によって差がある。絹は紡績、製織など全過程を伝統的な方法で行なった。製織後には精錬して一枚ずつ、藍で染色をした。装幀用の組紐は絹糸3本を編んで紅色に染色した。国内で生産された素材を使用してできる限り現物に近い状態への復元を試みた。

3 研究の展開

・『ディープラーニングによる紙質調査』  … 神谷直希(愛知県立大学)

近年、情報科学分野だけではなく、人文科学をはじめとする様々な分野において、問題解決手法の一つとしてディープラーニングの利用が試みられている。特に、畳み込みニューラルネットワーク(DCNN: Deep Convolutional Neural Network)は画像関連タスクにおいて非常に高いパフォーマンスを示すことが知られている。

ここでは、我々の最近の取り組みの中から、ディープラーニングを用いた紙の画像解析技術[1]を紹介する。これは、民生品のディジタルカメラを用いた非破壊画像解析手法として、ディジタルカメラにより撮影された紙のマクロ写真から、紙の質を自動解析するシステムである。特に、紙の繊維組成の自動分類法を中心に、紙名の分類、年代の分類などについて手法の概要を説明する。提案手法では、まず、紙のマクロ撮影により得られたマクロ画像に対し、前処理を行う。前処理では、トリミングにより画像周辺部のボケを除去し、グレースケール化により保存状態による着色の影響を取り除く。その後、1枚の撮影画像から多くの学習画像を得るため、パッチ画像を作成する。次に、前処理により得られたパッチ画像をオーグメンテーションし、DCNNアーキテクチャの一つであるVGG-16に入力し、紙質の自動分類を行う。麻と綿の繊維組成の自動分類では、パッチ枚数を学習、バリデーション、テストそれぞれ、4,608枚、96枚および96枚としたところ、平均94.4%の精度でパッチ内に含まれる繊維組成の自動分類に成功した。

ここで紹介する技術は、安価なディジタルカメラによるマクロ撮影とディープラーニング技術の組み合わせにより、非破壊で簡便に紙質が解析できる可能性を示している。また、本研究では紙そのものの解析にとどまるが、紙上のコンテンツなどを含む多角的な解析への展開が考えられる。

第2部 ウズベキスタンのサマルカンド紙、イスラーム写本、ミニアチュールを知る (13:00−15:50)

Research into ancient Samarkand paper, Islamic Manuscripts, and Miniatures

1 拠点校・ウズベキスタン芸術大学による報告

・『ウズベキスタンのミニアチュール:起源と復活』 … ベグゾット・ハジメトフ(同大学・タシケント)

ミニアチュールのルーツは、古代から中世にかけて形成された、アフロシアブ(古代サマルカンド)など、現在のウズベキスタンの地域で古代芸術として高度に発展した壁画などにある。やがて14世紀後半からのアミール・ティムール時代以降、15世紀の後半から16世紀の初めにかけて読書と美術が盛んになり、ヘラートの偉大な詩人アリ・シール・ナヴァイ(Ali-Shir Nava’i)の時代には、多くの優れた書家や芸術家がおり、その中でも偉大な画家カモルディン・ベクゾッド(Kamal al-Din Bihzad)とその系譜の画家が重要な役割を果たしている。

19世紀半ばには、ほとんど姿を消した中央アジアミニアチュールは、1970年代以降、偉大なる画家の伝統技法にもとずいてウズベキスタンで復元された。これまで、多くの現代アーティストが高品質のミニアチュールを制作しており、その現状を紹介する。またウズベキスタンの現代美術と応用美術に対する社会での影響、産業の発展、ミニアチュールの伝統を保存する上での役割と重要性についても解説する。

  

・『中央アジアの紙』 … ミルハミッド・サビロフ(同大学・タシケント)

105年、中国の蔡倫により紙が発明され、8世紀後半には、西方へは最初の紙工房がサマルカンドに建設された。その後、製紙技術はアラブの地に広がり、アッバース朝のカリフハールーン・アッラシード(776-809)の時代には、バグダッドはアラビア諸国の紙生産の拠点となっていた。

当時のサマルカンド紙は両面書写が可能で高品質でしっかりしており、近隣諸国に輸出されていた。13世紀半ばには、ブハラではシルクとシルクペーパーの生産を開始したといわれている。15~16世紀ティムール朝時代以降の期間に生産された紙の品質は高く、そこに描かれた絵画の技法は、現在まで写本やミニアチュールの技術として引き継がれている。またサマルカンド紙の種類は、「スルタン(Sultan)紙」、「イパック(Ipak)紙」、「ニムカノプ(Nimkanop)紙」、「ミライブラヒム(Mir Ibrahim)紙」があった。最後の紙には、コインサイズの形をした透かしが入っているものがある。

やがて、19世紀に工房が跡絶えたサマルカンド紙は、ブハラ紙とコーカンド紙に置き換えられ、この紙は古い布を由来として作られている。コーカンドのペーパーマスターは、エンジュ(Sophora japonica)の花を使用して黄色に着色した。さらに、紙繊維の粘着性を高めるために、エレムルス(Eremulus)の植物を混在させたといわれる。しかし、安価な機械製紙の白紙との競争に破れ、最後のコーカンド紙の紙工房は1924年に閉鎖された。

  

2 ウズベキスタンの研究機関によるイスラームミニアチュールの紹介

・『ウズベキスタンの文化遺産(写本について)』 … シュフラット・プラトフ(ウズベキスタン国立図書館・タシケント)

古代から、現ウズベキスタンの地域は中央アジアだけでなく世界文化の発展に大きく貢献した科学、文化、芸術の中心地の一つであると考えられている。この地域の文明の最も輝かしい遺産は本の文化であり、多くの手書きの本、原稿、歴史的文書がウズベキスタンに集中し残されている。

これらの本は、文明のレベル、特定の歴史的期間、地理的領域、民族、および国家における科学、文化、芸術の発展を明確に表している。同時にそれらは世界の文化遺産であり審美的価値の高い芸術でもある。

講演では、ウズベキスタンの最も重要な写本コレクションと、そのコレクションの中から学者、研究者、歴史、希少な収集家の間で非常に興味深い写本を紹介する。また、現ウズベキスタン領内や周辺で製作された、歴史家、研究者、美術史家の研究に値する重要なコレクション、例えば歴史的出来事、外交関係、科学者や思想家の移動、軍事作戦など、我々の文化的遺産として認められたコレクションも紹介する。

・『カモルドン・ベグゾットと中央アジアのミニアチュール』 … グルアブザ・カルシエヴァ(芸術アカデミーミニアチュール美術館・タシケント)

アブー・ライハーン・アル=ビールニー・ウズベキスタン共和国科学アカデミー東洋学研究所は1943年に設立された。写本の質と量において、同研究所の写本コレクションは世界で最も豊かなものの1つである。貴重な作品や特別な写本などとあわせ、制作された年代に関する重要な情報を提供している。

ここで収集された写本コレクションは、その量だけではなく、テーマ、言語、制作時間、独特の書籍デザインの多様性において、世界で最も豊かで著名な原稿の収蔵書庫の1つである。コレクションには、アラビア語の書体で26,000を超える写本と40,000のリトグラフがある。

アブー・ライハーン・アル=ビールニー研究所の写本のコレクションは、次の6つのコレクションで構成されている:「主な写本コレクション」(13,319巻の写本)、 「一対のコレクション(5,237)」、「ハミド・スライマンコレクション(7,586)」、「歴史文書コレクション(5,000)」、「リトグラフ本のコレクション(40,000)」、「マイクロフィルムのコレクション(9,700)」。

コレクションには、様々な写本があり、例えば9世紀のコーランの写本「Langar Qur’an」、アル=ビールニーの「Kitab at-tafhim li awail sina’at tanjim」、アブ・アル=イブン・スィーナー「al-Qanun fit-Tib」、シャリフィディン・アル・ヤズディ「Zafar-nama-yi Temuri」(ティムールの勝利に関する本)などがある。2000年に研究所の写本コレクションは、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「世界の記憶」に登録された。

ウズベキスタン芸術アカデミーのミニアチュール博物館は、カモルディン・ベクゾッドと彼の弟子の絵画遺産を中心に研究し、外国の博物館や図書館に保管されている作品の精巧な復元絵画を製作または収集し展示している。それは、カリグラフィーやミニアチュールなどの絵画の芸術を知り、断絶したサマルカンドやブハラのミニアチュール工房について研究することである。

カモルディン・ベクゾッドは、アリ・シール・ナヴァイ(Ali-Shir Nava’i)の支援を受け、芸術家として独自のスタイルを創り出し技術を高めていった。後に、サマルカンド、ヘラート、バグダッド、タブリーズ、シラーズの創造的なミニアチュール工房をひらき、その弟子達に成果を与えていった。このスタイルは、ヘラートなどの学校だけでなく、すべての東洋のミニチュア学校にも大きな影響を与えた。

中世のティムール朝の宮殿で働いていた多くの芸術家の中で、カモルディン・ベクゾッドだけが“Asr nadir”(世紀の画家、画家の長)、“Moniyi soniy”(2番目のモニー)などと呼ばれた。その後も、彼が宮殿で働くための条件を整え、彼をアーティストとして扱い最も有名な画家して知られている。

 

・『写本芸術の伝統的な継承』 … シャマフムット・ムハメッドジャノフ(画家・ミニアチュール研究者・タシケント)

東洋における書籍芸術の作成には多くの労力が必要だった。そしてその本の制作のため幾つもの芸術手法が用いられた。

[紙]は15〜16世紀ころ、サマルカンドとブハラで作られた紙は非常に高品質であり、世界の様々な地域に広まり輸出された。

[カリグラフィーの芸術]は、写本の作成において重要な役割を果たす。写本では、本のページ数、テキストのレイアウトや余白、文様のスペースなどのサイズにも決まりがあり、カリグラファーの仕事の役割は非常に重要であった。元々中央アジアには特定の種類の書体があった。

[写本のページを飾るラインなどの装飾]など、いくつかの写本や書籍は「Afshon」「Abri Bahor」「Muarriq」などの色紙や、その他の種類の紙で制作された。

[カバー]は2つの異なる方法で作成された。1つは、いくつかの紙を貼り合わせて完成させる。 2つ目は、厚紙を作る原料を特別な型に流し込み、その紙の上から革製のカバー貼り付ける方法である。カバーはさまざまな色とミニアチュールにより装飾され、その上に樹脂などで塗装されていた。

[Tazhib(幾何学的な装飾模様)や飾り]本の最初のページ(台紙、タイトル、エンディング)には装飾の芸術が飾られていた。

[ミニアチュール]は手書きの本の真髄である。東洋の文学作品の中で、写本絵画は多かれ少なかれ描かれているが、その内容は何世紀にもわたり本の特定の場面を選び配置されている。

3 ウズベキスタンの研究機関によるイスラーム写本、サマルカンド紙の紹介

・『サマルカンド大学の写本ファンド』 … ムハンマディホン・ブズルコフ(サマルカンド大学・サマルカンド)

サマルカンド州立大学の「写本ファンド」は、最も貴重な写本フォリオの最も豊かな「リポジトリ(書庫)」であると考えられている。何世紀にもわたって書かれた貴重な写本が収蔵されている。最も古いものは13世紀に書かれた写本で、その時代から20世紀初頭に書かれた写本までを収蔵している。

ファンドには12,000以上のユニットが保管されている。それらは、タジク-ペルシャ語、トルコ語-ウズベク語、アラビア語およびその他の言語の東洋の写本とリトグラフによる出版物で構成される。この基金は単なるウズベキスタンの科学者だけでなく、外国の研究者にも注目され続けている。最も古い写本には次の内容が含まれる。

“Takmilat Ali al-Sahah al-Javhari”-1306年、 “Sharkhi Kitobi Talhis Al-Miftoh”– 1348年、“Sharhi talim al-faroyiz”– 1378年、 “Sharh ul-wikaya”– 1478年、“Sharhis risolat ut-tasarrufot”– 1539年、他にも多くある。

スーフィズムの歴史に関する最も古い写本は、ファリド・アド・ディン・アターによる“Tazkirat ul-auliyo”である。 685/1286年にスルによる手書きで書き出された。この分野で最も古いリストかもしれない。

貴重なフォリオは、4つの作品(No. 823227)のコレクションで、アブドゥッラフマーン・ジャーミーの直筆写本である。 1つの表紙に綴られた4つの作品は、すべて1452年に著者自身によって書かれた。この年代は、最初の作品“Risolai Muammoy Kabir”の奥付で示されている(p. 54b)。

まとめに、サマルカンド州立大学の東洋写本のコレクションは、主に中央アジアに住む人々の歴史、科学、言語、文学に捧げられている。このファンドは大きな科学的意義があり、大学の誇りだけでなく、共和国の国宝である。これはかけがえのない贈り物であり、新しい世代の人々の知恵と知識の源であり、新しい研究のための素晴らしい資料である。したがって、非常に慎重な保管と活用の必要があると考えている。

・『国際イスラムアカデミーの写本調査活動』 … マハマドシディック・ウスマノフ(国際イスラーム大学・タシケント)

この報告では、1999年にウズベキスタン共和国の最初の大統領であるイスラームカリモフ大統領の命令によって設置された“Treasury of sources”という名の書籍部門について説明する。現在でもウズベキスタン国際イスラムアカデミー運営している。その部門は7世紀から20世紀までの十万冊以上の写本を持ち、その中にウズベキスタンの市民に関する貴重な情報も含む。また、旧ソビエト連邦は宗教に関連する作品等を禁止したため、地元住民は大切な写本や石碑を壁の間や地下などに隠すことを余儀なくされたという。

書籍部門の活動を含めて、著者は部門でこれまでに行われた仕事を一覧にした。現在までに “Treasury of sources”ファンドには、約500の写本、約2000のpsychedelic(リトグラフ)と10,000部を超える現代の印刷本があり、本の保管とともに、同部門による調査が行われている。

ファンドの手書き写本の分析では、本の芸術性を強調している。特に古代の紙の芸術、書体と筆跡などの種類、ミニアチュールと絵具、台紙、偽造品、ドローイング、色、地域文化の初期の発展などが分析されてきた。

・『アブ・レイハン・アルビルニ研究所の写本』 … シャリフジョン・イスラモフ(科学アカデミー東洋学研究所・タシケント)

アブー・ライハーン・アル=ビールニー・ウズベキスタン共和国科学アカデミー東洋学研究所は1943年に設立された。写本の質と量において、同研究所の写本コレクションは世界で最も豊かなものの1つである。貴重な作品や特別な写本などとあわせ、制作された年代に関する重要な情報を提供している。

ここで収集された写本コレクションは、その量だけではなく、テーマ、言語、制作時間、独特の書籍デザインの多様性において、世界で最も豊かで著名な原稿の収蔵書庫の1つである。コレクションには、アラビア語の書体で26,000を超える写本と40,000のリトグラフがある。

アブー・ライハーン・アル=ビールニー研究所の写本のコレクションは、次の6つのコレクションで構成されている:「主な写本コレクション」(13,319巻の写本)、 「一対のコレクション(5,237)」、「ハミド・スライマンコレクション(7,586)」、「歴史文書コレクション(5,000)」、「リトグラフ本のコレクション(40,000)」、「マイクロフィルムのコレクション(9,700)」。

コレクションには、様々な写本があり、例えば9世紀のコーランの写本「Langar Qur’an」、アル=ビールニーの「Kitab at-tafhim li awail sina’at tanjim」、アブ・アル=イブン・スィーナー「al-Qanun fit-Tib」、シャリフィディン・アル・ヤズディ「Zafar-nama-yi Temuri」(ティムールの勝利に関する本)などがある。

2000年に研究所の写本コレクションは、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「世界の記憶」に登録された。

第3部 エルミタージュ美術館の紙と芸術表現 招待講演 (※ロシア語から日本語逐次通訳) (16:00−17:30)

Invited lectures: papers and artistic expression of the Hermitage Museum

・『ニザーミーのハムセのミニアチュール』 … アダモワ・アデル(シニア・リサーチャー、エルミタージュ美術館・サンクトペテルブルク)

写本の奥付には、書道家マフムードによって1431年12月16日にヘラートのSultan Shahrukhのために完成したということが記録されている。ティムールの最後の息子であるShahrukhは、1405年から1447年に父親が亡くなったときから国を統治した。彼は特に歴史的な文献を好んだと言われている。エルミタージュのハムセ(5つの詩)は、このティムール朝の統治者のために書き写された唯一の絵画付き写本である。私がキュレーターになった時には、この原稿は非常に有名だったが、まだ十分な研究がなされておらず慎重な調査が必要だった。 

以前の所有者達の多くの碑文や印章は、この写本がヘラートでの完成日から、1924年にエルミタージュ・コレクションに入るまでの様々な旅をしたことを表している。 

38枚の絵画を紫外線写真で念入りに研究した上で、多くの顔が塗り重ねられ過剰な修復が加えられたことが明らかになった。書き足しを免れた元の絵画からは、高いレベルの描画であることを証明することができた。写本はティムール朝の宮廷様式の古典的な特徴を示している。この小さな写本のすべてのページが装飾されている。文章、装飾、および挿絵は、驚くべき統一性で仕上げられている。哲学的で教訓的なMahzan al-Asrar、ロマンチックな詩であるKhusraw and Shirin、Layla and Majnun、Haft Paykar、そして5番目の詩であるIskandarnamaなど、内容や印象はそれぞれで異なる絵画への研究アプローチが必要だった。 

エルミタージュ写本の3つの挿絵は、1410年から1411年にかけて、シラーズで書かれた。小さなアンソロジーの構成を繰り返している。この事実から非常に重要な問題が指摘されているが、他のティムール朝の王室の写本にも以前の写本の繰り返しが見られることだ。なぜ王室の写本で、以前の写本の作品を繰り返すのか。私の解釈では、ここに美への規範がある。すなわち、画家は先人の作品構成を繰り返すことを通じて、伝統と偉大な前任者に敬意を表さなければならず、同時に、画家は自分のオリジナルの作品を作り出さなければならない。この規範により、伝統を守り、絶え間なく進歩することができる。

・『エルミタージュ美術館の紙の調査』 … ミコライチェック・エレーナ(シニア・サイエンティスト、同美術館)

エルミタージュ美術館は世界最大の美術館の1つである。300万を超える展示物が博物館に保管されている。紙ベースのコレクション作品は、博物館の所蔵品のなかで重要な作品分野である。 

基本的に紙は有機的な性質を持っている。それにより時間が経つにつれて紙に変化が起こる。紙の劣化は、その紙の製造や利用状況、保管の条件によって自然な状態でも引き起こされる。劣化の程度は、紙の基本的な特性(物理的、機械的、化学的、色など)からの影響が大きい。 

博物館としての観点から、紙ベースの芸術作品を調査する必要がある。いくつかの基本的な方法により、さまざまな目的に応じて行われる。展示物の保存と修復、収蔵と展示条件の選択、および作品制作技術の鑑定である。 

観察により保全と復元のプロセスを予測することができる。得られたデータに基づいて方法と実行する作業が決まってくる。必要な試薬と新しい材料は、作品のすべての構成要素に適合するものでなければならない。 

紙ベースの芸術作品の技術検証は、どの時期における、様々な地域の複雑な製紙方法と過程の認識が必要になる。調査を通じて、芸術作品の製造時期と場所が明確になり、その真贋を特定することが可能になる。 

この報告では、レンブラントのエッチングコレクションの検証や、1769-1818ロシアの紙幣のコレクションなどの例をあげ、紙が劣化するマクロとミクロの特徴を例にあげる。作品がエルミタージュ購入委員会に到着したときに明らかにされた偽物の例もある。 

講演通訳:イゴリ・サヴェリエフ(名古屋大学)、今村栄一(名古屋大学タシケント事務所)、ムノジャット・ウマロヴァ(ウズベキスタン世界言語大学)

レセプションパーティ:1階CALEアゴラ(18:00から) 参加は有料(1000円)です。参加費は当日現地でお支払ください。

本セミナーに関する、柴崎研究室へのお問い合わせ。