文部科学省委託事業 標準規格の拡大教科書等の作成支援のための調査研究 「拡大教科書の効率的な作成方法について」 平成24年2月

目次

2 教科書発行者へのヒアリング及びアンケート調査

2.1 調査の目的と概要

本調査の目的は、昨年度に引き続き、教科書発行者の発行する原本教科書及び拡大教科書のDTPデータ作成にあたっての現状と、拡大教科書作成時 の困難・問題点を調査することである。DTPデータは教科書発行の元となるのみならず、拡大教科書発行の際にもデータが活用される場合が多いことが、昨年 の調査からも明らかとなっている。よって、詳細なDTP 体制を調査し、実際に教科書作成にあたっている現場の声をヒアリングすることで、本研究をより現状に即した実質的なものにすることをねらいとしている。

昨年度は、平成23年度の新課程における小学校教科書を発行する教科書発行者10社を調査対象として選択した。調査方法としては、調査した教科 書発行者の数が少ないこともあり、量的調査で全体の傾向を分析するというよりは、質問項目についてダイレクトな意見を聴取することを目的に、各教科書発行 者を訪問して直接担当者から話を聞くというヒアリング形式をメインとした。また、訪問前に各教科書発行者にアンケート用紙を電子メールにて送付しておき、 訪問時に記入された回答を参照しつつ補足事項を確認していくという方法をとった。この調査は平成23年2~3月に実施し、小学校26種143点についての 原本教科書及び拡大教科書作成の実態、さらには拡大教科書作成時に発生している様々な問題が明確になった。

今年度は上記の結果をふまえ、平成24年度の新課程における中学校教科書作成の実態を明らかにするために同様のアンケート及びヒアリング調査を 実施した。中学校教科書は教科の種類が増える上に、内容自体のボリュームも増大する。また、複雑な図表や特殊文字なども多用されるので、拡大教科書の作成 がさらに困難となっていることが予想された。さらには、昨年度は厳しい予算で結果的に拡大教科書作成が赤字にならざるを得なかった会社が多い中で、今年度 もその状況は変わらないどころか、ますます厳しくなっているともいえる。こうした現状の中で、拡大教科書の作成をさらに効率的に行うことが急務となってい る。

今年度の調査では、平成24年度の新課程における中学校教科書を発行する教科書発行者13社を調査対象として選択した。その結果、中学校35種99点についての原本教科書及び拡大教科書作成の実態、さらには拡大教科書作成時に発生している様々な問題が明確になった。

以下、調査過程と結果、さらには昨年度の調査を総合したまとめを記述する。

2.2 実施スケジュール

本調査は以下の通りに行った。

  • 2011年9月中旬:㈳教科書協会に調査協力を依頼。
  • 2011年10月中旬:㈳教科書協会からの教科書発行者・担当者リストに基づき、東京書籍㈱、大日本図書㈱、開隆堂出版㈱、学校図書㈱、 ㈱三省堂、教育出版㈱、㈱教育芸術社、㈱清水書院、光村図書出版㈱、㈱帝国書院、㈱新興教科書出版社啓林館、日本文教出版㈱、㈱学研教育みらい、の13社 に電子メールにてアンケート用紙送付。
  • 2011年10月24日:㈱清水書院、㈱帝国書院、日本文教出版㈱の3社にヒアリング及び意見聴取。
  • 2011年10月中旬~12月下旬:順次アンケート返送、集計。

2.3 調査項目

本調査は、昨年度の調査項目をベースとしつつ、教科書発行者に答えてもらいやすいように内容を簡潔に整理した。大きくⅢ章に分け、原本教科書の制作体制、拡大教科書の制作体制、全体を通してのデザイン指針や問題点、を質問項目とした。

以下が、送付したアンケート調査用紙である。

アンケート調査用紙1 アンケート調査用紙2
アンケート調査用紙3 アンケート調査用紙4

2.4 本年度実施した中学校教科書に対するアンケート調査の項目と回答

Ⅰ.原本教科書

(1)教科書における文字のポイント数、書体等について
A[概要]

中学1年生~3年生を通して、本文は10~11.5ポイントの範囲内で作成されている。中1、中2、中3と段階的にポイント数が小さくなっていく教科書もあるが、中1の教科書のみポイント数が大きく、中2と中3は同じポイント数の教科書が多く見られた。

図1 原本教科書のポイント数
図1 原本教科書のポイント数

汎用フォントでは、ヒラギノ明朝が最も多く27点の教科書で採用され、次にリュウミンが16点と続いた。オリジナルフォントを使用しているのは16点で、使用していない19点を下回っているとはいえ、半数近くの教科書でオリジナルフォントが使われていることが分かる。

英語と国語は特にオリジナルフォントが使用されることが多い。英語は6点中6点すべてに使用されており、欧文手書き文字に使用しているとの回答 もあった。国語は5点中4点で使用されていて、トメやハネにこだわる小学校の国語や書写の流れを汲んでいると推察される。また、数学や理科の数式や地図の 記号などにもオリジナルフォントが用いられている。

図2 オリジナルフォントの使用
図2 オリジナルフォントの使用
図3 オリジナルフォントの使用科目
図3 オリジナルフォントの使用科目
図4 中学校教科書使用書体
国語 游T明朝体 M
B社 オリジナル 明朝体
A-OTF リュウミンPro R-KL
B社 オリジナル R
C社 オリジナル 明朝体
社会 イワタUD、明朝R
D社 オリジナルG、ほか多種を使用
ヒラギノ明朝W3
数学 ヒラギノ明朝 W3
明朝+センチュリーオールド
リュウミンL-KL
ヒラギノ明朝W3、MMcentury Regular
FOT-筑紫明朝Pr5Rほか
理科 漢字…ヒラギノ明朝・W3 かな…游築5号仮名・W3
漢字+カタカナ:ヒラギノ明朝Pro W3, かな: FOT筑紫明朝Pro R, 欧文数字: A-OTFリュウミンR-KL
リュウミンPro M
ヒラギノ明朝pro W3
英語 NEW Century Schoolbook
Univex, センチュリースクールブック
AG Schoolbook Regular A
NC Gothic
Times New Roman
HelveticaAleph Roman
COLUMBUS
その他 ヒラギノ明朝Pro W3
A-OTF リュウミンPro R-KL
新ゴ M
ヒラギノ明朝W3
小塚明朝Pro R
筑紫明朝、新ゴ、新ゴR、新ゴB、フォーク、丸フォーク、丸フォークM
リュウミンPro
リュウミンR-KL
(2)原本教科書のDTP制作環境について
A[概要]

ほぼすべての教科書発行者がDTPを外注に出しており、自社のみで作成しているのは2社しかなく、35種中4種にすぎなかった。外注先が1社である教科書が最も多く24点、2社が3点、3社が0点で4社の外注先を持つ教科書が1点あった。

作業人数は、突出して多い40人という例を除き、2~10人の間で2人という回答が最も多かった。平均すると約4.2人となる。

図5 原本教科書の外注社数
図5 原本教科書の外注社数

作業期間は、どこからどこまでを作業期間とみなすかという解釈の違いもあり、3~55ヶ月とかなり回答がばらける結果となってしまった。最も長 い55か月と回答したところは、フォーマット制作から供給本データ完成までの期間を指している。この極端に長い期間を除外した平均の作業期間は、8ヶ月で ある。

OSはMacOSⅩが一般的で、バージョンは4.x~5.xが多く、6以降も1点あった。Windowsを使用している場合でもMacは併用さ れており、Windowsは補助的に使われていると考えられる。ページレイアウトソフトはQuarkXPressを使用している1点を除いて、すべて InDesignのCS2〜5までが使われていた。また、同時にほとんどの教科書でAdobe Illustrator(以下Illustrator)とAdobe Photoshop(以下Photoshop)が使用されていた。数学の2種では特殊なソフトの使用もみられた。

図6 DTPの作業人数
図6 DTPの作業人数
図7 DTP作業期間
図7 DTP作業期間
図8 使用ソフト
図8 使用ソフト
図8 使用ソフト
図9 OS
図10 使用ソフトのバージョン
図10 使用ソフトのバージョン

Ⅱ.拡大教科書

(1)拡大教科書の制作体制について
A[概要]

データ作成に関しては、外注を使わず自社のみで行っている教科書は、35種中4種にすぎなかった。残りのほぼすべての教科書が、1社に外注を依 頼している。しかし、原本教科書と外注先が同じ例は少数で、8割以上の拡大教科書が原本教科書とは違う外注先にデータ作成を依頼していることが判明した。 この要因として、原本とは別の専門性が拡大教科書作成に要求されていること、作業量的に原本教科書と両方は不可能であることなどが考えられる。

作業人数は、1〜10人の間で回答され、内訳は大きく異なるが、平均すると4.2人となり原本教科書の作業人数と同じだった。原本教科書の作業 人数より拡大教科書の作業人数が多いケースも複数あり、拡大教科書作成にかなりの労力がかけられていることが分かる。また、原本教科書と同じスタッフでは なく、異なるスタッフが拡大作業にあたるケースが圧倒に多く、この面からもコストを含めて拡大教科書の作成に相当の負担があることが判明した。

作業期間は、3〜12ヶ月の間で回答されており、平均すると6ヶ月で原本教科書の平均作業期間よりも若干短い。しかし、作業人数と同様に、原本よりも長い作業期間を回答したケースも複数あった。

拡大教科書作成の作業は、原本教科書完成後に着手されるケースが圧倒的に多い。とはいえ、納期は原本教科書と同じでなければならないために、各 社ともかなり厳しい時間的な制限の中で拡大教科書作成の作業を行っているといえる。原本教科書と並行して拡大教科書を作成しているケースでは、時間的に間 に合わないためにそうせざるを得ないというのが本音のようだ。

図11 拡大教科書の外注社数
図11 拡大教科書の外注社数
グラフ12_原本と同じ外注先か
図12 原本と拡大教科書が同じ外注先か
図13 作業人数(拡大)
図13 作業人数(拡大)
図14 拡大教科書作成の作業期間(拡大)
図14 拡大教科書作成の作業期間(拡大)
図15 拡大教科書作成の時期
図15 拡大教科書作成の時期
(2)拡大教科書のDTP制作環境について
A[概要]

原本教科書と同じ制作環境と回答したケースが多いが、違うという教科書も3分の1あった。違うと答えたケースの半分は、InDesignのバージョン違いである。

図16 拡大教科書のDTP環境
図16 拡大教科書のDTP環境
(3)拡大教科書のDTPデータの使用について
A[概要]

原本教科書のDTPデータは、原本教科書と拡大教科書との整合性や効率性の面から、すべての拡大教科書において使用されていた。

A[回答例]
  • 他の方法よりも制作進行にあたり、無駄がないため。
  • 原本教科書のデータを使用して再レイアウトし、必要に応じて可読性を上げるための修正を行うようにしているため。
  • 制作を効率的に行うために。
  • 原本教科書と合致させるため、同じアプリケーションを使用しているので効率がよい。
  • 教科書原本に近い仕上がりにすること。また、印刷会社から最終データをもらうことで、内容の正確性を保つこと。
  • 社会科という科目の特性上、年度ごとに見直しが必要になるため、訂正がしやすく、やり取りしやすい点から。
  • 原本教科書との相違を生じないようにするため。ゼロからつくる必要性がない。コスト面で有利。
  • 原本教科書、拡大教科書の質の差をなくすため。
  • テキスト、画像の流用等、原本データを使った方が無駄がないため。
(4)拡大教科書の印刷および製本について
A[概要]

印刷入稿データの保存形式は、PDFが28点、InDesignデータが6点、EPSが1点だった。

印刷方法は地図でオフセット印刷が使用されている以外は、すべてオンデマンド印刷となっている。教科書によっては、オンデマンド印刷した上でラミネート加工がなされていた。

製本方法は、無線とじが28点、リングが4点、平綴じが2点、あじろ綴じが1点だった。

印刷する紙の種類は、各社それぞれだが、紙の白色度は70%〜87%の間で回答されており、いずれもまぶしさを軽減する配慮を行っていると考えられる。

図17 入稿データの保存形式
図17 入稿データの保存形式
図18 印刷方法
図18 印刷方法
図19 白色度
図19 白色度
図20 回答のあった紙の種類
TSペガサス
OK トップコート
OKプリンス上質
OKプリンスエコ G100 70k
ダルコート。高級白板紙
北越製紙の雷鳥コート
クリームキンマリ
T白老地図用紙
原本より少し厚め
なるべく光らないオンデマンド用紙
コート紙
上質紙
再生紙
自社ペーパー
図21 製本方法
図21 製本方法
(5)拡大教科書における分冊数、文字のポイント数、書体等について
A[概要]

分冊数は、中学1年生〜3年生を通して1〜8冊となっている。分冊数の多少は、教科の特性によって変化があるというよりも、各社の拡大教科 書編集方針によって大きく左右されているようだ。例えば、歴史や地理は発行者によって3冊~8冊とかなり分冊数にばらつきが目立つ。社会は、内容が多岐に わたり図表も多いことから、全般的に分冊数が増える傾向がある。また、技術も同様に写真や図が多用されることから分冊数が多くなっている。学年による冊数 の変化をみると、中1、中2よりも中3のほうが分冊数が多いケースが1種あったのみで、ほとんど差は見られなかった。

ポイント数は、すべての教科書が標準規格に則るかたちで作成しているといえる。原本教科書においては、中1と中3では明らかにポイント数が 違っていたのだが、拡大教科書になると標準規格の22ポイントを本文の基準とするため、学年による変化があった教科書は1点も無かった。標準規格における 文字の大きさは、小学校4〜6年生でも22ポイントとなっているので、中学校の拡大教科書でも変わらないことになる。

オリジナルフォントを使用している教科書は、原本教科書に比べて3分の1程度に減少する。使用されているケースとしては、原本教科書と同様 に数式のxやyなどの文字、地図帳の一部記号類などの回答があった。フォントはゴシック体や丸ゴシック体を基準として、どの教科書も細かいデザイン性より は、見やすさを最優先しているようである。

図22 学年別分冊数
図22 学年別分冊数
図23 教科別分冊数
図23 教科別分冊数

※文部科学省ホームページ2012年1月更新データより作成

図24 オリジナルフォントの使用(拡大)
図24 オリジナルフォントの使用(拡大)
図25 使用フォント
図25 使用フォント
図26 回答された拡大教科書の書体・ウェイト
丸ゴシック ゴシック
丸ゴシックR・UDフォント ゴシックM
UD新丸ゴR G太ゴシック
じゅん201 UD学参ゴシックM
自社オリジナルゴシック 新ゴR

Ⅲ.その他

(1)提出用電磁的記録としてPDFデータ以外に提出しているデータについて
A[概要]

ボランティアの利便性を考えて、jpgデータを付けている教科書もあるが、7割以上の教科書がPDF以外のデータは提出していない。教科ごとの傾向は特にないが、地図のみはデータが重いので、そもそもPDFではなくjpgで提出を行っている。

図27 PDF以外でのデータ提出
図27 PDF以外でのデータ提出
(2)文章・写真・図表・イラスト等の選定及び配置について
A[概要]

拡大することを意識して文章・写真・図表・イラスト等を選定し、レイアウトを含む原本教科書の編集を行っている教科書は35種中4種しかな かった。まずは原本教科書の見やすさ、使いやすさを考えて完成度を上げることが最優先事項とされている。この理由としては、意識したいと思うが技術的にも 時間的にも厳しいという回答があるほか、そもそもユニバーサルデザインとして生徒の見やすさを追求しているという回答や、拡大教科書に限らず特別支援教育 の専門家の意見を反映させているという回答もあった。

いずれにせよ、下記の回答理由を読むと「拡大することを意識している/していない」にかかわらず同じような内容が書かれており、単純に原本教科書制作時に拡大が意識されていないケースがほとんどであるとは断定できないだろう。

図28 拡大を意識
図28 拡大を意識
A[回答]

拡大することを意識していると答えた理由

  • ユニバーサル環境を配慮して作成したので、意識していたといえると思う。
  • 図などは工夫。見開きはあまりない。
  • 読み進める順序や使いやすさに配慮すると、拡大することを意識するのと同じになる。
  • 現行(平成18年版)の拡大教科書の経験を踏まえ配置を工夫した。
  • ある程度意識していたが、考えすぎると本末転倒になることもあるのではないか。

拡大することを意識していないと答えた理由

  • 教科書としての内容の必要度を優先した。
  • 原本教科書において、もっとも掲載するにふさわしいものであることを、第一選定基準として考えているため。
  • 原本教科書の見やすさ・使いやすさを考えて編集している。
  • 一般教科書としての見開きレイアウトの見やすさを第一に考えていたため。
  • 意識して選定するのは難しい。
  • 拡大の際レイアウトが大きく変更になるため、拡大後のリアルな紙面構成まで配慮する時間的な余裕がなかった。
  • 拡大教科書に限らず、特別支援教育の観点から専門家の校閲を受け、見やすい図版制作は心がけている。
  • 原本教科書において必要な情報を精選して、教科書としての適切性、完成度を高めることに集中するとともに、色弱等への配慮を優先した。
  • 特に拡大することを意識して、選定および配置はしていないが、原本教科書を制作する上で、子どもたちが分かりやすく、かつ見やすく鮮明なものを掲載するようにしているので、拡大しても問題ないものとなっている。
  • 原本教科書の内容を練るのが精いっぱいで、拡大教科書まで視野に入れて検討する余裕がない。一方で、原本教科書で最良の内容を追求することが、拡大教科書で最良の内容を追求することになると考えている面もある。
  • 拡大教科書にしたときに、文章の折り返し、写真・図表・イラストを含めたレイアウトは原本と同じにするのは不可能なので、二次利用は意識 しながらも原本のレイアウトは拡大教科書を意識して進めることはできない。現実的ではない。ただし、それぞれの具材は二次利用しやすいよう意識して制作し ている。
(3)原本教科書において見開き全面を使用した‘フリーなレイアウト構成’がなされた特殊なレイアウトのページの拡大方針・工夫など
A[概要]

見開きになっているようなレイアウトの場合、まず写真や図は原本の大きさのままにして、字だけ拡大する場合と、写真や図を何分割にもして拡大する場 合とに大きく分かれる。どちらの場合も、原本教科書のイメージを損なわず、かつ学習に支障がないように様々な試行錯誤がなされている。内容の順序に沿い見 やすさを追求するために、大幅なレイアウト変更を行うことも珍しくなく、各社とも相当の工夫を行っていることが分かる。

A[回答]
  • 見開き紙面いっぱいの写真・イラスト等は原則としてそのまま配置し、紙面に含まれる要素(文字、写真、イラスト等)については拡大の適否をその都度判断して処理している。
  • 単純に拡大をするのではなく、原本での学習順や相互参照等、編集方針から外れないよう原本教科書の編集者が確認を行いながら、図版や文字等を拡大してレイアウトしている。
  • 原本教科書のページ構成を損なわない範囲で拡大する。文字は最大限22pに拡大するが、図版については、縮小することはないが、文字と同等の拡大率でなくてもやむなしとする。
  • それぞれの見開きにおいて掲載している意図が違うので一概には言えないが、その意図を損なわないことを前提とし、それぞれの見開きごとに拡大方針を検討して掲載する。基本的には複数見開きにわたって拡大をし、使途に則った順序に内容を再構成することが多い。
  • 関連する学習項目が見開きの外に分離しないようにした。
  • 何分割かにせざるを得ないので、出来るかぎり原本教科書で表現されている内容を同じように読み取れるように工夫している。
  • 読む順番になるように。
  • ごく限られた資料ページの中に、1ページ全体が図になっているようなページはあるが、これも分別して掲載するなどで対応できる。
  • 冒頭の「教科書の使い方」などがそうであるが、内容・流れの主旨を崩すことなく、ページ順・配置に配慮した。
  • 全面見開きのイラスト等では、細部に至るまで意識しながら校正した。
    原本教科書の内容により、順を追って掲載するようにしたり、図版やイラストがメインの場合は、説明文をまとめて別に表示したりするなどの工夫をしている。
  • 内容ごとに取りまとめられるよう配慮する。分散しないようにしたい。色分けのみではなく、線を入れて区分けするなど。付録ページは別冊にしている。また、枠を広めにして、オーバーフローを回避。原本でのデジタル化が早かったので、散々失敗した教訓を生かしている。
  • 「どうしたら見やすいか」ということをとにかく意識した。ゴチャゴチャさせない。
  • 実際の授業展開を想定して、それに沿った形で構成している。国立特別支援教育総合研究所の「『拡大教科書』作成マニュアル 拡大教科書へのアプローチ」を参照し、できるだけ従うようにしている。
  • 両観音の構成をとった鑑賞題材であるが、原本教科書を開いたときの感動をなるべく損なわないようにしたかった。ただ、フォントのサイズを優先させざるを得ないため、印象としては原本教科書と雰囲気はかなり変わってしまった。
  • 英語の場合、1ページの構成が決まっており、フリーなレイアウトのページは殆どない。ただ、イラストと言語活動が関連していることが多いため、言語活動の記述が複数ページに渡るときは、イラストを複数回掲載している。言語活動に支障が出ないようにするという方針だ。
  • 地図帳の場合、原本全体を通してフリーなレイアウトとなっており、紙面の幅や高さを生かして、出来るだけ周辺とのつながりや結びつき等が 見られるように配慮している。拡大教科書においても、この工夫が出来るだけ活かされるように留意している。原本では分図・カット図等は出来るだけ海の部分 に入れるようにし、陸地を覆ってしまうことのないように留意している。拡大教科書を作成する際には、分図は別のページに拡大して掲載するようにし、醜いレ イアウトにならないようにしている。原本では文字盤が小さく線も細い場合が多いため、拡大教科書ではベースマップを大きくしている。さらに、重要な情報に ついては文字を大きく、線を太くするように心がけている。振り仮名が色文字の場合、出来るだけ読みやすくなるよう黒字に変換したり、濃い色に変換するなど の工夫をしている。
  • フリーなレイアウト構成は,特設ページなどに使用されているが,それぞれ,順序やまとまりがあるので,それらが崩れないように意識して作成しようとしている。また,図の比較などは,比較する図同士を極力そばに配置する,などの工夫を行う。
  • 図版の縦・横の向きをかえるなどして極力大きく入るようにしている。
  • 理科では,太陽系のようす,日本上空の雲のようすや気団の分布など,広い面積で掲載したほうがイメージが掴みやすく理解が深まる図版も多 い。これらを拡大教科書のためだけに,原本の段階から分割して表示することは考えていない。拡大教科書に掲載するときは,分割して掲載可能なものは分割し て掲載することもあるが,基本的には,全景を見せたほうが理解が深まるので,図版サイズはそのままで図中文字のみ拡大して読みやすくするケースが多い。
  • 単純に拡大をするのではなく、原本での学習順序や相互参照等、編集方針から外れないよう原本教科書の編集者が確認を行いながら、図版や文字等を拡大してレイアウトしている。
  • 中学数学では、原本教科書に見開き全面を使用したレイアウトは殆ど用いていない。
  • 見開き全面を利用したページはない。
  • 特殊なレイアウトのページはない。
(4)拡大教科書の制作が困難と思われる教科について
A[概要]

図がメインで文字量も多い「地図」を制作困難とする回答が一番多かった。同じく図や写真が多く、特殊な文字が入る「音楽」「理科」「生活」「美術」 もあげられた。一方、既に制作が行われているという現状からか無回答も多く、中学校の教科ではないが内容の多い高校教科書を挙げる回答もあった。

A[回答]

「地図」を制作困難と答えた理由

  • 拡大するためには地図の図郭を分割せざるを得ず、原典地図帳で意図したものと整合させるのは著しく困難。
  • 地図帳は情報量が非常に多いため、拡大する際にすべての記載事項を拡大しきれない。ベースマップ自体を拡大するため、地図学習上大切な縮尺や距離の示し方も難しい。
  • データが膨大な数の階層に分れており,単純な地名拡大ではおさまらない。

「音楽」を制作困難と答えた理由

  • 単純拡大であればさほど問題にはならないが、現行の拡大教科書(2小節区切りの拡大率)にするのであれば楽譜をすべて作りなおさなければならないので困難が生ずる。
  • 音楽は楽譜が主たる教材になるので、拡大するスペースが限られるとページ数が増え、譜めくりが多くなって使いにくい。楽譜を優先させると、大きな版型となって実用性に欠ける。

「理科」を制作困難と答えた理由

  • 文章と図版の対照が難しいと思われるから。(同ページ内で両方を示せないから)
  • 理科は分割できない写真や図版が多く、それらを参照しながら本文を読むケースが多いため、見開き内の情報が減る拡大教科書ではページネーションが困難。

「数学」を制作困難と答えた理由

  • 数学では、原本の数式編集ソフトが拡大教科書外注先に無い場合、修正に時間を要する。

「美術」を制作困難と答えた理由

  • レイアウトが学習事項と密接に関連しているので、並べ替えて文字図版を見やすくすると、ページの意図が薄まる。A4判をB4判に拡大すると使い難いサイズになる。

「高校教科書」を制作困難と答えた理由

  • 註がすごく多いものや、文章のみが延々と続くものなど。中学はあまりない。
(5)教科書制作に関するご要望・ご意見などをご自由にお書きください
A[概要]

教科書制作全般に関する自由な意見を聴取することを意図した質問だったが、多くは拡大教科書制作にかかる費用に対する不満と要望だった。昨年度と今 年度に行ったヒアリング調査においても、すべての教科書発行者にとって費用の問題が深刻であることが判明している。また、費用にも関係してくるが、教科書 発行者と利用者の双方にメリットのあるデジタル化を要望する声も複数回答された。

A[回答]

「費用」に関する要望

  • 拡大教科書の作成にかかる費用と時間に対して、拡大教科書の価格の設定が安すぎる。拡大教科書で利益を得る必要はないが、現状では教科書会社が赤字になってしまうことも多い。
  • 拡大教科書を作成するほど赤字になることがある。
  • 拡大教科書作成が教科書会社の義務となっているが、予算、人員など限られた中での作業となる。外注や製作費などの面からか価格や体様などを決めてほしい。
  • 拡大教科書は、教科書会社の費用負担が大きい。作成の時間もかかる。財政的な補助を拡充してほしい。標準規格の判型にこだわらず,B5→A4など単純拡大で対応できないか。
  • 拡大教科書データ作成の費用は保障してほしい。他の教科書会社では異論があるだろうが、デジタル化したデータを文科省が買い取り、好きなように印刷するのでもわが社は構わない。

「デジタル化」に関する要望

  • 弊社の拡大教科書の発行点数は、平成24年で400点以上であり、毎年製造し直す。本文に修正はなくとも、奥付の発行年度は必ず変更とな る。社会や地図などは本文記述や総計資料の更新などにより、大幅に修正が加わることもある。きわめて煩雑な作業を要するため、拡大教科書のデジタル化およ びネットワーク配信による供給(および改訂データの提供)システムの構築に向けて早急に環境整備が望まれる。
  • 紙媒体ではなく、デジタルデータを教育現場で教科書として扱えるようになると良い。デジタルデータであれば、個人の見え方次第で好みの大きさに拡大できるのではないか。
  • 現在は紙媒体として作成しているが、今後例えばiPadのような軽量な末端に移行すべきと個人的には思う。規準となるフォントのポイント や、0.8倍、1.2倍という数字は目安であると聞いている。視野の広さなども個々で異なるから、自分の見やすい多さに拡大したり、コントラストを強めた り、あくまでも生徒が見やすいことを最優先すべきだろう。また、紙では教科書のボリュームがかなりなものになってしまうが、軽量PCならば全教科を一台の 末端にデータを入れることも可能だろう。

その他

  • 改行位置、レイアウトなどを考えると本来であれば、原本教科書作成と並行して拡大教科書を作成するのが望ましいのかもしれない。
  • なかなか困難なことではあると思うが、拡大教科書を使用する方々の実事態を一度見学させてもらいたい。

2.5 ヒアリング調査の概要

A[概要]

前述のとおり、今年度は3社の中学校教科書発行者にヒアリング調査を行った。アンケートの質問項目への回答をベースとしつつ、拡大教科書作成の具体的方法や教科書制作全般に関わることまで、現場の率直な意見を聴取することができた。

特に、アンケート調査でも明確となった制作体制やコストの問題は大きい。また、標準規格の見直しを求める声もあったことは重要である。以下、重要な意見をトピックごとにまとめて記述する。

A[回答]

拡大教科書の制作体制

  • 拡大専属の編集スタッフが2名いる。
  • スタッフ全員が毎日12時過ぎまで残業し、教育指導所を作る人手まで拡大教科書にとられてしまって、本当に大変だった。このような作り方はもうできない。
  • 原本教科書と拡大教科書で外注会社は別であり、教科によってもそれぞれ異なる。
  • 原本教科書の外注先はDTP会社であり、デザイン会社ではない。
  • 費用を安くしようとすると、拡大教科書を制作したことのない会社に頼むことになる。すると、校正などにどんどん手間がかかるようになってしまう。拡大教科書作成に慣れた会社は手間なしで仕上がってくるが、費用が高い。
  • 拡大教科書と原本教科書の間に違和感や差をなくすために、編集部が関わらざるを得ない。

拡大教科書の作成ポイント

  • 原本教科書のどこからどこまでが拡大教科書の1ページ分、と外注会社に細かく指示を出す。
  • 原本教科書1ページが拡大教科書4ページ分になるのを目安としている。
  • 全体を俯瞰する図を拡大する場合、細かい字のみ削除した原本教科書と同じ大きさの図を最初に置き、その後に部分的に拡大したものを付けている。重要な情報は字を大きくしたり、ポイント数は同じでも白枠を付けたりしている。
  • 原本教科書では青色でふりがながふられているものは、拡大教科書では黒色にした。

拡大教科書作成の苦労

  • 想像を遥かに超えて、初めての拡大教科書作成は大変だった。
  • 例えば、読む流れを示すリボンのような絵を、外注会社がただの飾りと判断してしまうと読む順序がめちゃくちゃになってしまう。
  • 地図帳作成の際、関東地方は本を90度回転させると見開きで収まるのだが、点友会から回転させないよう指示された。
  • 原本教科書で100万分の1の地図の次に、50万分の1の地図を載せたページがきている場合、拡大すると最初のページが50万分の1の大きさになるが、スケール表記は100万分の1である。それをどうすればいいのか非常に困る。
  • 試行錯誤を重ね、結果的に原本教科書より拡大教科書のほうが仕上がりがよかった教科もある。

自由意見

  • 年間4〜5冊しか注文のない教科は、とても困る。
  • 赤字になっても拡大教科書を無理矢理作らないと、採択のときに分かってしまうので不利。原本教科書の発行部数の多い会社はいいが、少ない会社はペイするのが大変だろう。
  • 縮小版を作る意味が分からない。
  • 地図に関してはデジタル本にしたほうが絶対にいい。
  • 奥付に定価を入れるよう指示があったが、入れない方がいいと思う。*十万円というような高額な表示があると、盗難やイジメの可能性がある。
  • 標準規格は見直す時期では。失敗例をきちんと検証すべきだ。
  • 高校教科書だが、レイアウト変更型拡大判を文科省から強制的に作成するよう言われた会社は困っていた。

2.6 まとめ

昨年度と今年度のアンケート調査を通じ、教科書発行者による拡大教科書の制作体制がかなり明らかとなった。以下、項目別に分けて記述する。

【制作環境】

小・中学校いずれもOSは通常MacOSXが使用されている。また、ページレイアウトソフトもInDesign がスタンダードとなっている。QuarkXPressを使用しているのは、小・中学校とも1点ずつであった。また、Illustratorと Photoshopも図表や写真の加工のために、同時に使用されるケースがほとんどである。

科目によって特殊なソフトが使用されるケースもあるが、それほど多くはない。

小・中学校いずれもWindowsが使用されているケースがごく少数あるが、Macと併用されている。

DTP環境は原本教科書と同じである発行者がほとんどで、異なると回答した場合も同じソフトのバージョン違いであるなど、大きな違いはないと判断できる。

原本教科書のDTPデータは、拡大教科書制作のためにすべて打ち直すという小学校の1点を除き、すべての教科書で使用されていた。

【制作体制】

ほとんどの発行者が外注していることが分かった。原本教科書制作において、自社のみで作成作業を行っているのは小学校では17種中1種、中学校 では35種中4種にすぎず、ほとんどの発行者が1~2社の外注先に依頼していた。これは拡大教科書に関しても同様で、自社のみで作成作業を行っているのは 小学校では2種、中学校では4種であり、1社の外注先に依頼している発行者が多数であった。

ほとんどの発行者は、拡大教科書作成のために原本教科書とは異なる外注先に依頼している。これは、拡大教科書の制作は原本教科書とは異なる専門 性が必要な上に、原本教科書と同時期に発行しなければならないので作業量の点で別会社に依頼せざるを得ない事情があり、多大な労力とコストがかかっている ことを示唆している。

図29 原本教科書の外注先
図29 原本教科書の外注先
図30 拡大教科書の外注先
図30 拡大教科書の外注先
図31 原本教科書と拡大教科書の外注先
図31 原本教科書と拡大教科書の外注先

【拡大教科書の形態】

拡大教科書の印刷は、小・中学校いずれも地図帳がオフセット5色(CMYK+特色)印刷であるのを除いて、すべてオンデマンド印刷である。製本方法は圧倒的に無線とじが多いが、教科書の特性によって利用者の使い勝手に配慮し、他の製本方法が採用される場合もある。

使用されている紙は再生紙を中心に各発行者それぞれであるが、小・中学校いずれも利用者のまぶしさに配慮し、白色度は落としたものが多い。

図32 製本方法
図32 製本方法
図33 用紙の白色度
図33 用紙の白色度

【拡大教科書制作への意識】

小学校・中学校とも、原本教科書制作時から拡大教科書を意識してコンテンツの選択やレイアウトをしていると回答した教科書発行者はかなり少なかっ た。しかし、[2.4 本年度実施した中学校教科書に対するアンケート調査の項目と回答]においても明記したように、「拡大することを意識している/して いない」の二者択一では「意識していない」と回答した場合でも、記述を読むと「意識している」と回答した発行者との意識の上で実質的な差はほとんど見られ ない。

よって、教科書発行者にとって拡大教科書作成がほぼ義務として定着する中で、常に拡大することは意識されてはいるものの、実際の作業としてはまず原 本教科書の完成に力が注がれ、その後に見やすく使いやすい拡大教科書に展開する努力が行われるケースが多い、と結論づけることができるだろう。

【今後に展望】

昨年の調査段階では、 InDesignを用いたDTP環境への移行最終段階であったが、本年度は各社とも移行が完了し、原本教科書と拡大教科書との制作環境もほぼ統一がなされていた。よって、効率的な作業を行うデジタル的なインフラ自体はまず整ったと判断できる。

今後さらなるデジタル化が進むと予想される中で、教科書発行者からもデジタル版拡大教科書への移行を望む声は多い。コスト面での教科書発行者の負担 を減らし、利用者の症状に細かくカスタマイズできる教科書を作成するためにも、一元化された教科書データを汎用的に様々に展開する技術やノウハウがますま す求められていくといえるのではないか。

図34 原本教科書作成時に拡大教科書を意識しているか
図34 原本教科書作成時に拡大教科書を意識しているか