文部科学省委託事業 標準規格の拡大教科書等の作成支援のための調査研究 「拡大教科書の効率的な作成方法について」 平成23年3月

2 教科書発行者へのヒアリング及びアンケート調査

2.1 調査の目的と概要

本調査の目的は、教科書発行者の発行する原本教科書及び拡大教科書のDTPデータ製作にあたっての現状と、拡大教科書作成時の困難・問題点を調査することである。DTPデータは教科書発行の元となるのみならず、拡大教科書発行の際にもデータの活用を行っている可能性が高い。よって、詳細なDTP製作体制を調査し、実際に教科書作成にあたっている現場の声をヒアリングすることで、本研究をより現状に即した実質的なものにすることをねらいとしている。

本調査に関連する先行調査としては、平成21年度「教科書デジタルデータ提供の在り方に関する調査研究事業」における『教科書発行者が保有するDTPデータの調査研究報告書』がある。ここでは、中学校教科書発行者22社に対するアンケート用紙の送付・回収を通じ、DTP製作プロセスと文部科学省に提出するPDFの作成方法に関する調査が行われた。中学校教科書のDTP環境については、先行調査でも様々な検証が可能であることに加え、平成24年度から新課程での発行となる。よって本調査では、平成23年度の新課程における小学校教科書を発行する出版社10社を調査対象として選択した。

調査方法としては、調査した出版社の数が少ないこともあり、量的調査で全体の傾向を分析するというより、自由回答に近いダイレクトな意見を聴取することを目的に、各出版社を訪問して直接担当者から話を聞くというヒアリング形式をメインとした。訪問前に各出版社にアンケート用紙を送付しておき、訪問時に記入された回答を参照しつつ補足事項を確認していくという方法をとった。

述べ6日間にわたる調査を終え、小学校26種143点についての原本教科書及び拡大教科書作成の実態、さらには拡大教科書作成時に発生している様々な問題が明確になった。

以下、調査過程と結果を記述する。

2.2 実施スケジュール

本調査は以下の通りに行った。

  • 2011年1月下旬:教科書発行者として研究協力の教育出版(株)、(株)新興出版社啓林館に教科書出版会社にアンケート案を送付。
  • 同年2月1日:情報交換会にて教育出版(株)、(株)新興出版社啓林館にヒアリング及び意見聴取。
  • 同年2月14日:社団法人教科書協会に調査協力を依頼。東京書籍(株)にヒアリング及び意見聴取。
  • 同年2月22~23日:(株)学研教育みらい、(株)帝国書院、大日本図書(株)にヒアリング及び意見聴取。
  • 同年3月1~2日:(株)三省堂、(株)教育芸術社、開隆堂出版(株)、光村図書出版(株)にヒアリング及び意見聴取。
  • 同年3月初旬:補足事項に関するアンケート回収。

2.3 調査項目

本調査は、A各社の代表的な教科の原本教科書及び拡大教科書のDTP製作体制を調査する質問と、B文部科学省提出用PDFや拡大教科書製作体制全般を質問する部分との2つに大きく分かれている。以下が、送付したアンケート調査用紙である。

アンケート調査用紙1 アンケート調査用紙2
アンケート調査用紙3 アンケート調査用紙4

アンケート回答用紙 A

アンケート調査用紙5 アンケート調査用紙6 アンケート調査用紙7
アンケート調査用紙8 アンケート調査用紙9

アンケート回答用紙 B

2.4 A ヒアリングの項目と回答

本節では、各出版社に対して行ったヒアリングの項目と回答をまとめる。各項目の最初に[概要]としてヒアリング項目の主な内容をまとめ、実際の質問内容は斜体で表記し、回答にはAマークを付けて枠内に表記した。

Ⅰ.原本教科書(いわゆる通常の出版教科書)のDTPデータ製作に関してお聞きします。

(1)教科書の科目名、学年・総ページ数、文字のポイント数、書体等について

Q a.教科書の科目名教科書のタイトル(例:たのしい数学等)お答えください。
Q b.各学年の総ページ数、本文の文字のポイント数と書体・ウエイトについてお答えください。
Q c.使用書体がオリジナルフォントや合成フォントの場合は、その概要・特徴をお答えください。
Q d.教科書の書体、文字のポイント数の決定はどのように行われたか、概要をお答えください。

A[概要]※各教科の概要、総ページ数、文字のポイントは、各社回答用紙を参照。

使用書体に関しては、特に国語・書写はトメ・ハネの正しい教科書体を使用し、オリジナルフォントの使用率が高い。これは書写などの手書きの手本になることから、各社独自の思想が入った書体をデザインしてきた経緯による。また、地図のように特殊な表現を駆使している場合などは、オリジナルフォントを使用している。ただしフォントメーカーの開発によるもので、文字変換の互換性は高い。

その他の科目では、フォントメーカーの市販デジタルフォントを使用している例が多く、外注業者との仕様統一を行っている。数学、理科の特に単位・数式・公式の表記では、教科書での表現として美しさが求められており、書体と文字組みに独自の工夫が多かった。

文字のポイント数は、読みやすさや情報量のバランスから、編集者とデザイナーが協議して決めるケースが多い。図・写真などが中心となる地図、保健などは、トータルのバランスからデザイナーと協議して決めていた。

A c
  • オリジナルフォントあり オープンタイプ(イワタ)国語は文字が重要。子どもがマネをして漢字が書けるよう工夫した文字にしている。(国語)
  • オリジナルフォントあり 本文には、教科書のために特にデザインした「自社オリジナル社教科書体」を用いている。これは、美しく読みやすいだけでなく、主として小学校の児童が筆写の手本にできるよう工夫した、より手書き文字に近い書体である。このほか、「自社オリジナルゴシック体」「自社オリジナル明朝体」という書体も用いている。いずれも、一般のゴシック体・明朝体のよさを大事にしながら、装飾的特徴による書き文字との著しい差を最小限にし、字形・画数を正しく認識できるよう工夫したものである。(国語)
  • オリジナルフォントあり 地名はその規模や大きさに応じて6~16ポイント程度を使用。書体は中ゴシック・太ゴシック・リュウミンなどを使い分けている。また、地図用に開発した専用フォントも併用。正式地名を記載するために、旧字体の外字を用いている。(地図)
  • オリジナルフォントあり (自社オリジナル)ICA・R + G Suuji F4 + MO GkigouR K40(算数)
  • オリジナルフォントなし・合成フォントあり 数字は「MO Gsuuji KO20」を使用。単位記号の「a(アール)」「g(グラム)」は、「MO Gsuuji KO20」にシアー(-8°)をかけて使用。
  • オリジナルフォントなし・合成フォントあり ひらがな「き」横線2本の下を短くしている。漢字も複数加工あり。(国語)
  • オリジナルフォントなし・合成フォントあり 以前は作字があったが、今回はなし。モリサワパスポートでできるもの。外注でも最低ここだけは揃えられるようにしている。手書き風は合成もあり。(音楽)
  • オリジナルフォントなし・合成フォントあり 写植の時代はオリジナルフォントあり。(理科)
A d
  • 漢字・仮名は、国語指導に配慮して、とめはねの正しい教科書体を採用。数字・記号は、算数指導・ローマ字指導に配慮し、かつ国際単位系(単位記号を斜体にしない)に配慮して、小学生にもわかりやすい書体を採用。文字のポイント数は、読みやすさと情報量のバランスから決定。(国語)
  • 著者の意向を受けて、編集者とデザイナーが協議して決める。(国語)
  • 17年度版教科書の文字サイズ・字詰・行送をベースに、複数のパターンで紙面を組み、比較・検討し決定した。特に「読むこと」を重視している。教材では、タイトル・作者・脚注などの役割によって、フォントの種類・大きさを使い分け、本文と学習の手引きの差がつくようレイアウトを工夫した。使用書体に関しては、本編部分は教科書体を中心に、はね・はらい・画数に配慮しつつ、必要に応じてゴシック体を使用した。新版では、高学年の付録で明朝体を用いたが、これは、中学校教科書や一般書に親しむことを期すものである。(国語)
  • 平成18年中学校用の国語教科書で明朝・ゴシックのみオリジナルフォント作成。この時のDTP環境と現在が変化している上に、小学校に新規参入するため教科書体を製作。(国語)
  • 過去の類似教科のポイントを参考にしてきたが、読みやすさへの配慮から今回の改訂で一回り大きくした。(保健)
  • 小学校の場合、基本的な書体が教科書体と決められているので、それに従っている。ポイント数は基本的には今までの自社の流れを踏襲している。会社でデザイナーにポイントを指示。(音楽)
  • 限られたスペースに記載できる大きさを念頭に置きつつ、できるだけ大きく見やすいフォントを用いるようにしている。規模や大きさによる使い分けはこれまでの経験にもとづいて決めている。(地図)
  • 可読性。検定基準細則のクリア。字詰めや行数等とのバランスは、デザイナーと相談して決める。(理科)
(2)原本教科書のDTP製作環境について

Q a.DTPデータ製作は自社ですか、外注ですか? 外注先が何社かある場合は数もお答えください。
Q b.DTPデータ製作に使用しているPC、OSのバージョンは何ですか?
Q c.DTPデータ製作に使用しているアプリケーションソフトウェアは何ですか? ページレイアウト用のソフト、その他のソフト、両方お答えください。

A[概要]

原本教科書の編集は社内で行い、DTPは社外の1〜2社の外注業者に依頼している場合が多い。その他、編集からDTPに至るまで一貫して社内で行う出版社や、大まかなレイアウト作業まで社内でDTPを行い、デザインや仕上げを外部に任せる方法をとる出版社もある。

ヒアリングを行った出版社では、DTPデータの作成に使用するオペレーティングシステムはほとんどがMacOS 10.4以降、一部旧バージョンのMacOS 9.1を使用している。編集その他ではWindowsのソフトも併用している。

ページレイアウト用のソフトは、ほとんどの出版社がAdobe InDesign CS3〜CS5使用しており、一部Quark XPress 4.0を製作環境の都合もあり使用しているケースもある。また算数、理科、地図や美術などの表現へのこだわりからAdobe Illustratorにてレイアウト編集を行っている場合がある。その他画像の編集はPhotoshop、楽譜の編集はFinaleというソフトが使用されていた。

(3)原本教科書の製作方針について

Q a.DTPデータ製作時におけるレイアウトデザインの方針はどのように決定し、また統一していますか。概要をお答えください。(例:ポイント数やレイアウトデザイン、イラストの使用など)
Q b.拡大教科書製作を意識して原本教科書を製作していますか? 理由もお答えください。

A[概要]

各社のレイアウトの製作方針は、学習課題、学習展開、学習の流れを重視しながら、左上から右下(国語以外)にレイアウトする傾向がある。イラストの使用は、理解を深めるために補助的に使われる。また、CUD(カラーユニバーサルデザイン)への配慮を製作の方針として掲げている回答が複数あった。全体的なレイアウトデザインは、改訂毎に学校の現場から新しいイメージのデザインを求められるので、デザイナー、プロダクションをコンペティション形式で選ぶ場合もある。

拡大教科書の作成を意識しているかの質問については、全く意識していないケースとかなり意識しているケースとに意見が分かれた。本年4月に発行される教科書は、約2年前から製作にあたっている。よって、拡大教科書の着手時にはすでに原本教科書の製作に取りかかっているので製作環境は、大きく変更できない。しかし、一昨年までに製作した拡大教科書の経験から、原本教科書の作成時から順序性の読み取りやすさに配慮したり、なるべく見開きのデザインを避けたりする工夫をした出版社の例があった。また、拡大教科書を意識するというより、原本教科書にCUDを意識した編集方針を持つようにしているなどの回答もあった。

A a.
  • 見出しや学習課題(発問)などの重要な文字は大きく太く、キャプションや読物などの補足的な文字は小さくした。レイアウトデザイン:原則左上から右下へレイアウトする、学習展開(学習課題~話し合い~観察・実験~結果~考察)に統一したマークを付ける、観察・実験中の手順説明(①、②、…)に矢印を添えるなど、全体に視線がスムーズに移動できるようにした。イラスト:正確にわかりやすく示すとともに、CUDにより、色覚の個人差を問わず、必要な情報が伝わるようにした。
  • 著者の意向を受け、編集者とデザイナーが協議して決める。
  • ポイントは発達段階に応じて読みやすい大きさに。レイアウトは学習の流れに従って自然に視線が流れるように。イラストは、理解を深めるために必要なものを関連する本文や課題の近くに配置。以前からページレイアウトソフトを使っていた。
  • 分かりやすさ・見やすさを第一に掲げている。何点かのデザイン候補の中から決定し、それを基に全ページの統一を図っている。最初に会社とデザインチーフとで方針決定の話し合いをする。楽譜の見やすさが一番。低学年・中学年・高学年でフォントの大きさを変えている。細かい色調整は印刷時に行う。楽譜と歌詞はAdobe Illustratorでつくり、画像データになっている。
  • CMYKベースでPDFに画像貼り、書き出す。社内(※社員+派遣社員の体制)でもオペレーターによってやり方が違う。外部デザイナーは、DTPオペレーションを行わないでデザインを指示するのみの場合と、デザイナー自身である程度作る場合とある。
  • 著者と編集担当者とが相談して決めている。フォントや線・記号の運用方法については、編集担当者がこれまでの経験を生かす形で決定。重要な地名はゴシックで統一し、都市(ポイント)・川(ライン)・平野(面)などそれぞれの特性によってフォントのタイプや大きさを使い分けている。様々なフォントを斜体にしたり、長体にしたりといろいろ加工し、駆使している。
  • CUDをどうするかで、CUDOの指導を受けている。2-3ヶ月かけてデザイン決定。学年・教科・その1年などの区分により、全体のカラーコーディネートのテーマを決める。その教科書らしいデザインを残しつつ、現場からは変わり映えを求められるので、デザイナー・プロダクションはコンペ形式で毎年変えている。採用には営業も加えて、外部デザイナーを選んでいる。
A b.
  • 意識している 拡大教科書製作時にデータを利用しやすいように、なるべく特殊なフォントを使わず、文字のアウトライン化もしないようにしていることで、フォントの問題によるエラーが出にくく、拡大教科書以外の製作物(指導書など)への二次利用もしやすいため。拡大教科書製作時にレイアウトしやすいように、なるべく順序性の読み取りやすいレイアウトにする。結果的に、原本教科書を使用する一般の児童にとっても、学習しやすい。とはいっても、見開き構成にせざるを得ない頁も存在している。さらに、上記のような意識はしているものの、23年度用教科書は、21年春に文科省に提出のため、製作はさらにその2、3年前から始まっている。よって、21年度用の拡大教科書を製作したときの問題点の解消は、時期的には間に合っていない。
  • 意識している 編集者が考えている順番で拡大できていないことがあった。読み違いされないレイアウト、学習順序がよく分かるレイアウトでなければいけないと編集者全員が認識した。例:キャラクターのせりふなど。
  • 意識している 原本教科書と拡大教科書に大きな違いが出ないほうが好ましいので、文字も大きめにし、レイアウトもまとまりがわかりやすいようにしている。拡大を意識しないで見栄えを良くしたいというのが本音だが、一回拡大教科書を作ると意識せざるを得ない。拡大したときに大変なので、なるべく見開きにわたるデザインが無いように意識し、細かい単位で作るようにしている。ページ全面で展開するようなイラスト資料などは、可能なかぎり作らないようにしている。
  • 意識している 前回の教科書作成時は、文字化けを回避するため、Adobe Illustratorで見開き・アウトライン済みのデータを入稿していた。今回はテキストの抽出やDTPデータの流用のしやすさを考慮した。前回作成時は全部打ち直したので、それは避けたかった。Finaleで楽譜作成したデータ → EPS(ベクトルデータ) → In Design。楽譜のみアウトラインをとっていた。Finaleデータにもどって加工。楽譜は作り直した。
  • 少しは意識している 原本教科書を作るのでまずは手一杯。原本の拡大転用はできない。
  • 少しは意識している デザイナーに弱視・色弱に配慮するよう一応注文はするが、実際は作成業務が忙しくて無理。原本教科書をしっかり作るのに精一杯。楽譜のみアウトラインをとっていた。Finaleデータにもどって加工。楽譜は作り直した。
  • 意識していない 原本教科書をきちんと見栄え良く作成しないと、競争には勝てない。拡大教科書作成時に多少の面倒や苦労があるとしても、後で工夫して作成する。
  • 意識していない 平23年度教科書のデザインは、平21年検定提出のさらに2年前、平成19年頃には固まっていた。平成19年当時、全教科で拡大教科書を製作するということは検討されていなかったので、レイアウト・編集などで、発行を前提とした工夫や取り組みは行われなかった。
  • 意識していない 原本教科書と拡大教科書は、組版の基本ルール・ページレイアウトも大きく異なり、印刷・製本の方法も違う。拡大教科書そのものを前提とした編集は行っていないが、原本教科書の段階から、特別支援教育を念頭においた、教科書自体のユニバーサル・デザインとしての見やすさ・捉えやすさには十分な配慮を施している。よって、拡大教科書のレイアウト・編集を考える際も、そのことが生かされた。拡大教科書に適したレイアウトというのが難しい。ともかく原本教科書をしっかり作る。指導要領の改訂でもともとの情報が110~120%増大している。でも、厚く重くならないように1ページ2~3分割を基本とし、それ以上にはならないようにした。普通の子が見開きなのに、あまりページが分割しているのは学習上支障がある。1冊250ページを目処に多くても300ページを超えないよう配慮した。
  • 意識していない 地図帳の場合、郷土学習への対応からすべての市町村名の記載が求められたり、農業・工業・漁業などの産業に関わる情報が求められたりすることがあり、情報量が多くなってしまう。そのため、個々の地名などのフォントをすべて大きくすること自体が困難な場合がある。

Ⅱ.Ⅰでお聞きした原本教科書の拡大教科書の製作等に関してお聞きします。

(1)拡大教科書の製作体制について

Q a.データ製作は自社ですか、外注(外注社数)ですか? また、外注先は原本教科書と同じ会社が製作していますか。
Q b.1科目あたりのデータ作業に関わるチームは、約何名で構成されていますか?
Q c.1科目あたりのデータ作業期間は何ヶ月くらいですか?(見込み、過去の実績等お答えください)

A[概要]

拡大教科書の製作体制は様々で、自社で作成、自社と外注で共同、教科書と同じ会社に依頼、教科書と別の外注に依頼など、これまでのデザイナーやDTP作業の関係も考慮しつつ各社が拡大教科書の発行可能な体制を構築している。拡大教科書の作成は概ね4〜9人で6〜9ヶ月かかる。教科書と同時進行で18ヶ月に渡って開発している会社もあった。

(2)拡大教科書のDTP製作環境について

Q a.データ製作に使用しているPC、OSのバージョンは何ですか?
Q b.1冊あたりのデータ製作に使用しているPCの台数は約何台ですか?
Q c.データ製作に使用しているアプリケーションソフトウェアは何ですか?ページレイアウト用のソフト、その他のソフト、両方お答えください。

A[概要]

ヒアリングを行った会社では、DTPデータの作成にはほとんどがMacOS 10.4以降、一部旧バージョンのMacOS 9.1を使用している。編集その他ではWindowsのソフトも併用している。使用するパソコンは概ね2~8台。

ページレイアウト用のソフトは、ほとんどの会社がAdobe InDesign CS3〜CS5使用している。原本教科書の作成ではQuarkXPress4.0が一部使用されていたが、拡大教科書では使用されていない。算数、理科、地図や美術などは、原本教科書の環境と同じでAdobe Illustratorにて編集を行っている場合がある。その他画像の編集はPhotoshop、楽譜の編集はFinaleというソフトが、アウトラインデータを書き出すために使用されている。

(3)拡大教科書の製作方針について

Q a.原本教科書のDTPデータを使用していますか? 理由もお答えください。
Q b.文字・写真・図表等、拡大する際の統一的な方針等はありますか? 主な内容をお答えください。

A[概要]

全ての会社が原本教科書のDTPデータを使用している。使用方法は教科書と同じソフトウエアを使用してレイアウトの変更を行っている例と、文字、画像、図版などを抽出し再編集している例がある。また、データの互換性に乏しい場合は、打ち込みから行っている例もあった。

DTPデータを使用する理由は、ミスの防止、時間の短縮、教科書に近い画像の質の確保などが挙げられた。

A a.
  • 使用 ミス防止:テキストを再入力したり、図版を再加工したりして、誤植や脱落などが発生することを避けるため。省力化:テキストの再入力や図版の再加工などの無駄を省くため。画像の質の確保:オリジナルのデータを使用することで、劣化のないデータが確保できるため。
  • 使用 テキスト、画像、図版などの原稿として使用している。ページとしては使用していない。
  • 使用 テキストや画像すべてを流用するため、原本教科書のDTPデータを使用することが漏れや間違いをなくす最善の方法であるから。
  • 使用 ほかの方法よりも、製作進行にあたり、無駄がないため。
  • 使用 教科書原本に近い仕上がりにするため。印刷会社から抽出データをもらって。
  • 使用 拡大教科書は専門チーム。拡大用のデザイナーはおらず、オペレーター2名で調整。
  • 使用 地名を個別に拡大するため、元データに立ち返って作業する必要がある。地図帳の拡大教科書は、各ページのレイアウト再編成に専門的な判断が必要となるため、編集作業とオペレート作業とを分けて進める。
  • 使用 Adobe InDesignのデータを使用。PDFやテキストデータだと作業が遅れる。
  • 不使用 打ち込みからすべてやり直している。
A b.
  • 原本拡大型については、原則として原本とレイアウトは変わらない。ただし、文字数が多くどうしても入らない場合や折り込みがある場合は適時対応している。文字サイズのみの拡大としている。レイアウト変更型については、原則として原本1頁を、2頁に展開している。できるだけ原本の編集意図と変わらないように、順序性等は原本の流れに沿っている。写真図形等は、文字サイズの拡大率と近い拡大率を目指しているが、ページ全体の構成や必要性をみて適時サイズを決めている。
  • イラスト・写真は、同じく「標準規格」に沿って、原本教科書にあるものをすべて掲載することとした。ただ、文字と同様に拡大したイラスト・写真と、原本教科書と同程度のサイズとしたイラスト・写真とがある。これは学習上の必要性から判断した。表・グラフなど、拡大するとともに、ページ分割すると学習上混乱するものは、縦長に広げて見る見開きページとした。
  • 拡大教科書標準規格、拡大教科書製作マニュアルをベースにしている。拡大する時に余白が少なくなるよう努力している。 写真・図表 → 本文のポイントを基準に、自然なかたちで拡大。楽譜 → 線や音符を見えやすいように通常より太くする。文字 → 行間は読みやすいように、やや広めにする。標準規格に単に従うだけでは難しい。A4ではなく、変形版(中学校で実績ある大きさ)。文字主体の教科とは違う。
  • 標準規格に従っている。基本の形を2~3ヶ月かけて話し合いで決める。ルビも含めてこのくらいの大きさというのを決めて、その都度判断している。見やすさでデザイン。迷わずページがめくれるように、構成等を配慮。
  • 縮尺にも一定の配慮を行い、地図部分の拡大率を原則としてそろえた。細かな地名のなかから学習上重要と思われる地名はさらに拡大して表示。写真やグラフなどの地図でない部分については、できるだけ大きく拡大。原本教科書の地図帳は天地左右の向きがさまざまだが、天地左右の向きが一定の方向になるよう配慮した。(※見開き縦方向を横に4分割するなど)
  • 国立特別支援教育総合研究所(特総研)のマニュアル参照。実寸版が必要なところなど、図は編集がチェックする。
(4)拡大教科書の印刷及び製本について

Q a.印刷入稿データの保存形式は何ですか?
Q b.印刷方法、製本方法、印刷する紙の種類(名称)は何ですか? 紙の白色度(%)がお解りでしたらお答えください。または、白色の程度をお答えください。(例:白い、やや黄みがかった白、など)

A[概要]

ほとんどの会社が、レイアウト用ソフトから作成するPDF形式で入稿している。オンデマンド印刷会社のデータ受け取り仕様によってはAdobe InDesignのまま入稿の場合もある。

ヒアリングを行った会社では、1社を除きすべてオンデマンド印刷による製本までを行っている。1社はオフセット5色印刷を行っているが、これは特色を使用することで、色の再現性を高める目的である。製本方法は無線綴じが多く、一部かがり製本、針金綴じなど教科書の耐久性を増すためコストはかかるが原本と同じ方法を取っている。用紙の選択はさまざまで、もともとの教科書用紙、オンデマンド専用紙、一般上質紙を使用。白色度はほとんどの会社が70から75%程度。一部美術などの教科では色の再現性の重視のため83%とやや白い紙を使用している。

2.5 B ヒアリングの項目と回答

B:共通質問項目

Ⅲ.共通の質問項目です。文部科学大臣に提出している教科書の電磁的記録に関して、また拡大教科書の出版についてお聞きします。

(1)PDFデータの製作について

Q a. PDFデータ製作に使用しているPC、OSのバージョン、アプリケーションソフトウェアは何ですか?※教科ごとに異なる場合は、それぞれお答えください。

A[概要]

PDFデータの製作に関しては、すべての出版社が、原本教科書の最終データから書き出す方式で製作している。セキュリティの設定は、文部科学省の教科書データ提出留意事項にもとづくため全社行っていなかった。文科省の指示に従っており、守秘義務等は別途の取り決めによる。

Q b. 印刷会社へデータを入稿した後、印刷会社での写真データの差し替え(高解像度)や面付けなどを行わないと、最終的なデータが完成しない場合があります。御社の場合、どの段階でPDFデータを製作されていますか。製作方法等の概要をお答えください。

  • 製版の完全データからPDFを作成。
  • 最終的な印刷データ(下版データ)が完成後、PDFデータ書き出しを行っている。
  • 拡大教科書の場合、DTP校了と同時に高画質(高解像度)PDFを製作して、印刷工程へまわしている。
  • 入稿はDTP、PDFは印刷会社が製作している。オンデマンド印刷の場合にPDFにするが、ボランティアに渡すものとは全く違う。
  • 印刷会社より最終データ(本画像のもの)を受け取り、MacのInDesignからPDFを作成。
  • 印刷会社に入れるものと同じなので、印刷しようと思えばできてしまう。写真の入れ替えなし。RGB変換したPDFにしている。
  • 文部科学省了解のもと、原本教科書がデータ校了になったものをJPEGに変換。最終版を提出。
  • 見開き紙面の状態で(面付けではなく)製作。
  • 教科書の製作が完了してからすべて本画像に貼り替えた後、InDesignに貼り付けてPDFを作成。
Q c. PDFデータの文書プロパティにセキュリティを設定していますか。その理由をお答えください。
Q d. 通常フォントに無い外字を使用している場合、通常フォントに置き換えていますか。その理由をお答え下さい。
A[概要]

文部科学省の教科書データ提出留意事項にもとづくため、セキュリティの設定は全社行っていなかった。外字の置き換えは可能な限り行い、PDFで渡すことが困難なものは文部科学省と相談の上JPEGで渡している部分もある。

A c.
  • セキュリティの設定はしていない。文科省で設定するため(だったと思う)。文科省の指示に従っている。守秘義務等、別途の取り決めに因る。
A d.
  • 楽譜(音符)やデザイン的なものは、アウトライン化している。音符に白抜き文字で「ドレミ」を付けている場合は、アウトライン化したものに白抜き文字をAdobe Illustratorで置いていく。それだけでは分かりにくいと拡大教科書作成経験者からアドバイスあり、赤い文字で上にドレミを書いた。
  • オープンタイプを使っているので、もともとの異体字があれば文字化けするかも。しかし、もともと国語は文字化けしにくい。
  • 地図帳の場合、外字や特殊記号をフォントとして用いているため、通常フォントへの置き換えが難しい場面が多くある。またデータが大変重いため、PDF変換だと時間もお金もものすごくかかる。そのため、文科省の承諾を得て文字も含めて地図全体をJPEGにしている。
  • 外字を使っていないから。
  • 小学校では外字なし。以前、中学校のときの提出時に置き換え。標準規格による。どうしても表現に支障がある場合は、元のフォントを使うこともある。
  • 文字の種類が増えているので、異字体そのものがなくなってきていると思う。
(2)アクセシブルPDFの対応について

※提出するPDFがアクセシブルPDFに対応している場合のみお答えください。

Q a. アクセシブルPDFを提出する理由をお答えください。
データのタグ付けや読み上げ順序などを編集するアプリケーションソフトウェアは何ですか?

A[概要]

全社製作しておらず、提出データとして考えたことがない。またアクセシブルPDF自体の認知度が低い。

Q(3)PDFデータ以外に提出しているデータがありますか。あればそのデータ形式とそのデータを添付する理由をお答えください。

A[概要]

テキストは要望があればできるだけそのように努めるが、容易に書き出しができないのが現状。指導書についているものなどは提出している。他にPDFで取り出せない合成図版など特に依頼があったものに個別に対応している例がある。

  • 現代社会のみテキストデータを添付。他はつけていない。
  • つけているのは、指導書の一部分のみ。
  • 文科省の了解をとり、PDFでなくJPEGで提出している。
  • 取り出せない合成図版があり、文部科学省から依頼があったため。
Q(4)拡大教科書発行について

拡大教科書の出版にあたり、作成が困難と思われる教科はありますか? あれば、教科名とその理由をお答えください。複数ある場合は、それぞれお答えください。

A[概要]

特に図や数式を多用するもの、絵画、図、書道など。またページ全体を俯瞰して見る地図など、そもそも小さい字で情報量が多いので拡大教科書作成には相当な時間が掛かっている。

  • 生活科、音楽 2教科とも見開きで完結しているページが多いので、複数ページ展開にする際に掲載順序を決めるのが難しい。見開きページの世界観を表現することが難しい。
  • 保健 小学校の保健の拡大教科書は難しいと思う。レイアウトが複雑で、絵なども多いので。
  • 地図帳、図工、高校数学、物理 高校数学や物理における数式処理は、各出版社の勝負どころ! 写植でやっと確立したスタイルが、DTPへの移行でまた新たに模索しなければならなくなった。数式には特別なフォントとアプリを独自に開発して使用。ゴシックではない。市販の math magic というものをカスタマイズして使用している。
  • 音楽 楽譜ページの捉え方:①全体を俯瞰する必要性 ②高学年で演奏順序が複雑になる楽譜への対応が難しい ③リピートなどをどうするか(何ページにもわたって戻ったりしなければならない) 楽譜は先が見えないと困る。歌詞と楽譜の関係性も存在。どこまでこだわるかで、デザインのやりとりに時間がかかる。機械的に変更するノウハウは今のところない。今後蓄積すれば、多少はマシなのか…?
  • 書写 原本で折込タイプとなっていた、書初め用の長いお手本ページは苦労した。スキャンして画像としている鉛筆書きの見本は薄すぎるので、濃くなるよう指示。書写の拡大教科書はかなり需要がある。
  • 生活科 見開き構成が多いため。ページ全体を俯瞰させて認識させた上で、個々の詳しい説明を行うようなレイアウトの場合、最初から個別に分かれてしまう。そういう構成でいいのか疑問に思う。弊社ではないが、音楽の楽譜などはどうするのだろうか。
  • 地図 地図帳の拡大教科書の作成にはコストや手間といった課題もあるため、今後の内容・体裁・進め方などを改善したい。
  • 美術 困難というほどではないが、文字だけでなく、絵画や写真こそ大きく見せたい教科もある。ただ、すべてを拡大すると、膨大なページ量になり、使用しづらいものとなってしまう。ページの分割もあまりに多くなると、学習に混乱をきたすという問題も抱える。
  • 高校数学 数式エディタを使っているので、拡大教科書を作成するオペレーターが原本オペレーターでないと困難。アプリケーションも同様。

Q b. 原本教科書では、例えば見開き2ページを1面にするなど、フリーなレイアウトがなされる場合があります。このようなページの拡大教科書を作成する場合、ページ分割や大幅なレイアウトの変更が必要になりますが、どのような点を重視し工夫していますか。その概要をお答えください。また、可能であれば実際のページを添付してください。

  • 切り分ける内容が指導順になるよう注意している。縦に分割、横に分割など、個別ページに合ったわかりやすい分割のレイアウトを選択する。
  • 編集意図を確認して掲載順序を決める。次見開きへのつながり感を出す。例えば、囲みケイ使用の場合は裁ち落としまで引いて、連続感を出すなど。
  • 例えば、全面の写真と子どもの吹き出しが重なっているページ(特に社会・生活)など、ページを分割せざるを得ない場合は、学習の順序性からしてどれを先行させるかを検討した。イラスト・写真と文字が重なっており、文字を大きくするとこれらが隠れる部分が大きくなってしまう場合は、文字位置をずらすなどした。
  • 過去の研究発表等を見ると、弱視者の症状には、視野が狭い、横に視点を移動した後に(例:左から右に移動した後)次の行頭を見つけづらい、などがあるという。それを考えると、原本教科書において1ページもしくは見開き2ページで表現しているページ等のレイアウト変更は難易度が高い。数ページにわたってしまう。こちらが読んで欲しい順序で拡大していく。原本教科書はカラーユニバーサルデザイン対応しているものの、コントラストが近似している画像が多数ある場合は難易度が上がる。
  • 特に小学校の原本教科書では、国語以外は「見開き完結」が標準。1時間の授業で、教科書を1回開いたら済むような構成になっている。受験に必要のない科目だと、中学校・高校でも見開きが採用される。この見開きにいかに情報を入れるかが勝負。逆にそこからこぼれ落ちる情報は削除されることもある。平成4年でカラー化が進み、平成14年で大判化とフルカラー化が進行したが、見開きが始まったのは平成4年より前ではない。
  • 学習の順序性・関連性や内容を配慮。音楽では、ある曲に対してどの挿絵が関連しているのかに留意した。拡大教科書を作ることで、原本を見直した。
  • 国語:脚注部を下にもってくると余白が出るので、ページを増やさないよう、見開き左側に置くなど工夫している。書写:書き順を示す番号や矢印などは元が小さいので、見やすくなるよう工夫している。
  • 原本が見開きになったレイアウトの場合は、拡大したときにページが複数にわたってしまう。こちらが読んで欲しい順序で拡大していく。
(5)イラスト・写真等に関してお聞きします。

Q a. 御社で発行する教科書内のイラスト・表、写真などは、拡大教科書の作成時、主にどのような加工が行われていますか。概要をお答えください。

  • 図中に文字のないイラスト、写真の場合は適時拡大、図中に文字のあるイラスト、表の場合は拡大文字サイズに合わせる。イラスト・表、写真の加工は基本的には行わない。ただし、細い線(矢印など)は適時サイズを上げる。
  • イラスト・表は読み取りやすいように色変更を行う。イラスト・写真は輪郭を縁取るなど加工する。
  • 拡大するだけでなく、グラフ・表は囲みなどの罫線の太さを変え、表内に文字が入る場合も「標準規格」に合わせて打ち直した。図表全体を、拡大教科書に合わせて全面的に作り直したものもある。あくまで本文を22ポイントとし、その他のフォントサイズはそれに対してのデザイン的比率とした。
  • 基本的には原本教科書の表現を損なわないように使用している。標準規格や国立特別支援教育総合研究所の作成マニュアルにもとづき、必要な部分には線を太くしたりなど、区別がつきやすいように加工を行っている。
  • スペースの問題がないところは、拡大するように努めた。
  • 図を読み取らねばならないような場合は拡大するが、学習に大きく影響しないような挿絵はあえて大きくしない。子どもが困らないよう考えている。
  • できるだけ大きく拡大して掲載するようにしている。グラフなどは文字部分をさらに22ポイントになるよう拡大するなどの工夫を行う。
  • 国立特別支援教育総合研究所(特総研)のマニュアル参照。線を太くしたり、区別がつきやすいようにしたりする。

Q b. 次期の改訂(23年度版小学校、24年度版中学校)に際し、拡大教科書の作成のために原本教科書のイラスト・表・写真等の使用方針や使用量に変更はありましたか。あればその内容と意図もお答えください。

A[概要]

ほとんどの会社が変更はなかった。

  • 拡大教科書のために、原本の写真等の使用量や方針を変更することはありえないと思う。原本教科書の写真等は大幅に増えたが、それは編集方針とニーズによるもの。
  • 拡大教科書のために、原本教科書のイラスト・写真などの点数を考えたりはしていない。原本はユニバーサルデザインを意識しつつ、学習上最もいいものを作る。
  • とにかく原本教科書をいかに魅力的に製作するかに集中しないと、競争に勝てない。よって、拡大教科書を作る際に多少手間がかかったとしても、原本教科書の出来を最優先する。
  • イラストのデータ作成時に、拡大教科書での印刷可能ぎりぎりの場合は、解像度を上げてもらったものが一部ある。
  • 日本は図表の読み取り能力が低いため、たくさん挿入して読解力を上げるよう指導要領に書かれているので変化なし。

Q c. 現在発行している(または発行予定)教科書の中で、自社に版権・著作権が無い別途に使用許諾を受けたイラスト・写真等の使用している場合について 、拡大教科書を発行することにおいて”知的財産権”に関する問題がありましたか。内容もお答えください。

A[概要]

ほとんどの会社が問題はなかった。ただし写真に対して現代美術や寺社仏像の写真など財産権は別途承諾を得ることが必要であった。

A
  • 一部のフォトエージェンシーより、拡大教科書への写真掲載にあたっては、別途料金が発生するとの連絡を受けた。
  • すべてのイラスト・写真において、拡大教科書への利用許諾を取っている。
  • バリアフリー法があるので、概ね契約内で対処できている。しかし、仏像などは著作権以外に神社仏閣の財産権にもとづく使用料が発生する。文化庁の補償金で対応している。
  • 補償金は発生しているが、拡大教科書作成が基本なので特に問題なし。
  • 拡大教科書を作成することが事前に分かっているので、原本を作成する時点で作家等に事前に交渉済み。

Q Ⅳ.拡大教科書作成に関するご意見・ご要望

  • あまりに拡大教科書を中心に考えるのはどうかと思う。今回のように教科書改訂期は、検定等非常にタイトなスケジュールで業務が進む中、全教科でミスなく拡大教科書を発刊するのは現実的に無理。需要数が1冊、2冊の教科で、レイアウト変更版を作成すると、定価が莫大な金額になり現実的ではない。すべてを発行者で負担するのは、現実的に厳しい。特に、1科目につき、何種も発刊している高校教科書になるとかなり難しい。
  • 「標準規格」では、基準フォントが低学年用(1・2・3年生)と高学年用(4・5・6年)で示されていたが、3年生から情報量が一気に増え、原本教科書も文字の大きさ・組み方が大きく変わるため、そのままのポイント数であてはめるとページ数も膨大になり分冊数も増える。すべての教科を見渡しても学習指導要領の上で、低学年・中学年・高学年で基準フォントを区切るなど、今回の作成を踏まえて「標準規格」の再検討も課題と考える。中心になるポイント数の割に意外に受注が少ないものもある。
  • 拡大教科書の定価の決め方を考えて欲しい。必ずかかる固定費を保証してほしい。(※2社同様の回答)
  • デジタル教科書の話が急に進んでいるので、Mac環境のDTPがいつまで存続するのか、かなり疑問である。拡大教科書作成の際は、校正などで確認作業が多い。
  • 拡大教科書が無い状態での製作体制だったので、人的配分にとても苦労した。労力としては、もう1冊教科書を作るイメージだ。結局、労働時間がどんどん延びることになった。「標準規格」はどうなのか?という疑問。作る手間に見合う価格で売りにくい。
  • 拡大教科書を作るコストは、出版社側のある程度の持ち出しはやむなしと考えてはいるが、限度もある。
  • これから作成の中学校の拡大教科書に悩んでいる。本当に22ポイントがいいのか。また、地図の特性として俯瞰できるということがあるが、分割されるとそのメリットがなくなる。例えば、大陸・半島などの形が掴めなくなる。分冊すると、索引検索に困難が生じてくる。
  • 拡大教科書の印刷に関しては、印刷会社にはほとんど利益無いほどの格安で頼んでいる。
  • 既に提出しているPDFをiPadに入れて提供するだけで、だいぶ違うのでは。出版会社も文科省もお互い労力が削減できる。
  • 自動組版を目標に掲げてXMLを研究している研究者から、レイアウトをシンプルに!という提言をされたが、各社の編集担当者が反対するだろう。
  • 型にはめるのは、社内だけでも困難だ。パターン化はある程度できるかもしれないが、完璧に揃えるのは不可能と思う。
  • 単純に図を拡大することで4分割したりするのはおかしい。どうすれば「学習しやすいか」をまず第一に考えるべきだ。
  • フォントの大きさや形には意味がある。それを拡大教科書にも生かすべきでは。
  • 一般教室での多様な学習障害の児童にも対応できることを想定しているらしいが、財源的に可能なのか?

2.6 まとめ

原本教科書のDTP環境については、これまで出版を行ってきた体制を更新しながら、徐々にAdobe InDesignにおける編集環境に移行している。原本教科書DTPデータは、教科書の元原稿に様々な修正が加えられた、最終的な印刷データそのものである。この原本教科書DTPデータの拡大教科書製作への利用に関しては、ほとんどの会社が積極的であり、前回の拡大教科書製作の経験を生かしているといえる。ただし、今回の調査対象である平成23年度改訂版では、原本教科書との製作環境の統合が間に合っていない状況も見受けられた。

拡大教科書製作の前提は理解しているが、現状では検定にかかる原本教科書をまずは充実させることが出版社にとっての最重要課題となっている。よって、拡大教科書を意識したデザインを原本教科書製作時から採用する例は少なく、ほとんどの出版社では原本教科書のデザインを追う形で拡大教科書製作を進めていた。

拡大教科書製作には時間的にも大きな負担がある中で、教科書発行者は標準規格に則るかたちで、原本教科書と同様に拡大教科書のデザイン等にも様々な工夫を行っている。しかし、教科の特徴やページの情報量によっては、22ポイントという標準規格の適用が難しい部分も当然出てくる。例えば、そもそも原本教科書において、本文よりも小さい文字で示されているコラムや吹き出しの文章や図中の文字などは、拡大する際に各社判断に迷うようである。全ての文字を22ポイントに拡大しようとする努力から、ページ数が増大するケースがあることもヒアリングから判明した。

同時に、図の拡大にも問題が生じていた。俯瞰して見せることが目的の図であったとしても、拡大することでいくつにも分割されてしまう。そうなると、図そのものの意図・意義を的確に伝えることが困難になってくる。特に地図においては、1ページや見開きで示された大陸や半島の形状や国家の位置関係などが、何ページにも分割されることで把握しにくくなるので、利用者のみならず出版社にとっても大きな悩みとなった。

このように、原本教科書のデザイン・内容をしっかりと製作することと、その後に作成される拡大教科書のデザイン・形態を整えつつ、原本教科書と同時期に発行することを両立させるために、発行者は大変な努力を重ねていることが明らかとなった。